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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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49 令嬢たちのお茶会


 それから一体、何通のラブレターを書かされたことだろう。

 ほとんどが、女性の宛名なのが不思議だった。女性が女性に恋文?

 そして例外なく、最後に、「シグモント」とサインせよ、と迫って来る。


 それに、差出人の名がシグモント? 俺の名だよね。いや、うぬぼれたらいけない。依頼人の令嬢の兄か弟、あるいは若い叔父の名に違いない。彼らは身内の令嬢たちに、自分の恋文の代筆を頼んだのに違いない。それを、彼女たちは俺に丸投げしたというわけだ。

 シグモントという名が流行りなのだろうか。ある年代の貴族たちが生まれた子息に、一斉にこの名をつけたとか?


 にしても、なぜ、当の令嬢の名が宛名になっているんだ? 兄弟だか若い叔父だかは、彼女にぞっこんだとか。いや、彼女と同じ名前のお嬢さんかもしれないぞ。なにせこの時代、同じ名前が多いからな。

 無理にそう思って自分を納得させようとする。

 とはいえ、ここにいる令嬢全員の身近に、彼女と同じ名の女性を愛する「シグモント」がいる? どうにも納得がいかない。


 「わたくしには2通お願いしますわ。姉に頼まれましたの。姉には小さい子どもがおりまして、今日は来られないから。シグモント様にお会いできなくて、大層、残念がっていました」

 レモン色のドレスの令嬢が言って、微笑んだ。

「一般的に、宛名はお相手の名を書くんですよ? 貴女やお姉さまの名ではなく。貴女やお姉さまの名前は、手紙の末尾にサインなさるべきです」

 不思議でならず、つい、そんな風に言ってみる。

「宛名は私の名、そして送り人はシグモントでお願いします。あ、姉の分も忘れないで下さいね」

 きっぱりと令嬢は言い切った。


 周りには令嬢たちがぎっしり、室外であっても、香水の香りでむせ返るようだ。彼女たちの熱気で、軽く汗ばんでくる。頭がぼうっとしてきた。俺は、考えることを放棄した。言われた通りに、次々と恋文を書いていく。


 「シグモント様!」


 名を呼ばれた。机の脇に、栗色の髪のご婦人が立っていた。俺の下宿へ来てくれたあの貴婦人だとわかった。今日はベールはつけていない。初めて見る彼女は、目鼻立ちのくっきりとした、異国風の顔立ちをしていた。思っていたより、さらに若い。

「さあさあ、皆さん。シグモント様にもお休みを差し上げて下さいな」

 群がっていた令嬢たちが、深々と頭を下げた。蜘蛛の子を散らすように、立ち去っていく。


 「到着のお名前は聞こえたのに、お姿が見えないと思ったら、さっそく彼女たちに捕まってしまったようですね。よくいらっしゃいました。イメルダです」

 令嬢たちが立ち去ると、彼女は言った。

 イメルダ? 聞いたことのあるような名だ。

 思い出そうとした時、彼女の輪郭がダブって見えた。ははん、と思った。

「ご懐妊ですね?」

「ええ」

 イメルダは嬉しそうに笑った。

「シグモント様のお手紙の効果です。主人が訪れてくれましたの」


 どこへ、は、言わずもがなだ。


「効率の良い媾合(まぐわい)でしたわ。おかげさまで、子を授かりました。結果に満足しております」

「えと……おめでとうございます?」


 疑問符がついてしまった。だって、効率のいいまぐわい、って。ま、うっかりできちゃったよりいいけど。

 夫さんの「愛人」はどうなったのだろうか。無事に想い人に振り向いてもらえて、夫さんは失恋したか。あるいは、むしろこちらであってほしいが、夫さんはイメルダさんの魅力に気がつき、愛人と手を切ったのか。

 気になったが、聞くべきではない。夫婦の間は、夫婦にしかわからない。彼女が満足なら、それでいい。

 口の端を扇で隠し、イメルダが顔を寄せてきた。


「それで、貴方から手紙を貰うと、願い事が叶うという噂が広がったのですわ」

「僕は貴女に手紙なんか書いていませんが」


 どういう伝言ゲームだ? 令嬢たちは、自分あてに手紙を書くよう、頼んできた。それも、差出人は俺の名で。

 でも、俺がマダムの為に書いたのは、彼女の御主人へのお誘いだ。寝室へ来てくれるように、という。具体的な名前は一切聞いていなかったので、宛名と差出人の欄には空欄にしておいたが、当然、マダム自身が書き込んだだろう。もちろん、宛名は夫氏の名で、差出人にはご自分のサインを。


「噂ですもの。無責任なものですわ」

 扇の陰で、嫣然とイメルダは笑った。

 ひどく不穏な雰囲気だ。こちらのの心をひどくかき乱してくる。

 ……まさか、悪霊に憑依されているのでは?

 失礼を顧みず霊視しようとした、その時。


「なんだ、これはぁ!?」


 素っ頓狂な声が、空中庭園に轟いた。

 芝を踏みしめ、どすどすと足音が近づいてくる。ここは建物の屋上だ。あんなに踏みしめたら、最上階の天井が抜けるのでは?


「怪しからん。実に怪しからん。俺のシグが……、」

 燦燦と降り注いでいた陽の光が遮られた。

 誰かが俺の前に立ちはだかった。

 冷たく、恐ろしい気配が吹き下りて来る。

「俺のシグが、俺以外の人間に恋文を書くなんて!」




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