表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/64

47 真夜中の執筆

 迎えに来た馬車に乗り、間もなく貴婦人は帰っていった。

 結局、最後まで名を名乗ることはなかった。そういう人もいるから、気にはならない。手紙を書いて、署名欄を空白にしておけばいい。

 夕食を済ませると、俺はさっそく仕事にとりかかった。


 ……毎朝、涙で枕を濡らして目が覚めます。貴方のいらっしゃらない床は、凍えるほど寒く冷たい。


 ……お会いしたいのです。清浄な褥の上で、誰にも邪魔されることなく、二人きりで。


 ……私は、貴方にふさわしい衣装を身に付けますわ。それは透明で、目に見えない生地でできておりますの。


 ……抱き合って、恋を語りたい。せめて夢で出会いたい。いいえ、そんなのいや。本物の貴方がいい。


 ……熱いこの肌に触れたら、きっと私の想いの強さが伝わることでしょう。


 ……貴方がつけた火は、貴方が消さなくてはなりません。だって、他のお方にはどうすることもできないのですから。


 ……私が燃え尽きてしまう前に。どうか。


 ……お願いだから私を忘れないで。あなたの愛がなければ、私は生きていくことができません。


 ……あなたが好きです。大好きです、ヴァーツ、



 「うわっ!」

 俺は、手紙を引き裂いた。

 なんてことだ。最初から書き直しだ。




 手紙は、類似のものを何通かお渡しした。

 香を焚き閉めたり花を添えたり、紙やインクの質にもこだわった。

 我ながら畢生の出来だったと思う。

 先方からは、引き続き、しばらくの間、手紙を書き続けてほしいと依頼があった。

 太筋のお客を掴めたのかな? けど、こういうのは嬉しくない。早くマダムに幸せになってほしいと、願うばかりだ。


 「手紙はもう、要りません」

 何度かの訪問の後、おつきの少女が言った。夫さんとの関係修復、うまくいったのだろうか。それとも、まさか、諦めたとか?


「奥様からです」

 少女が手渡した手紙は、お茶会の招待状だった。

 指定されている場所は、王城の離宮。ここは一般公開されていて、一般人でも、会食や式典などに利用することができる。

「や、俺、お茶会とか苦手で」

 人前に出るのは嫌いだ。まして貴族のお茶会となると、気疲れするのは必至だ。

 少女は動じなかった。

「奥様からのお言づけです。『お茶会には、ボルティネ様にお手紙を書いて欲しがっている方がたくさんいらっしゃいます。お仕事の幅を広げる絶好の機会になりますから、是非、ご参加下さい』」

 棒読みのように述べた。難しい言葉にもつっかえることはない。恐らく丸暗記させられ、何度も練習してきたのだろう。

 仕事かぁ。それを言われると弱い。生活にはお金が必要だ。マダムは、お客を紹介してくれるのだろうか。

「わかりました。伺います」

 さんざん逡巡した挙句、とうとう俺は承諾した。

 お辞儀をして、少女は帰っていった。


 お茶会。軍にいた頃、何度か誘われたことがある。あれは本当に苦痛だった。殆ど、任務の一環として参加していたと言っていい。それも苦手な任務の。

 着飾った令嬢たちが集まって、軍服を着た将校達との、一種のお見合いパーティーのような雰囲気だった。お茶会が縁で結婚したカップルもあった。


 今回の場合は、他にどういうお客が来るのだろう。まるでわからない。もう軍服はないから、失礼にならないよう、身なりもなんとかしなければならない。

 一気に憂鬱な気分に落ち込んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ