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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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45 マダムの恋文

 そんなある日、地味なドレス姿の女性が訪れた。地味ではあるが、どっしりとした質感の、上等な生地の服だ。栗色の髪がきれいにカールし、顔はレースのベールで覆われていた。


「シグモント・ボルティネさんですね?」

 入り口で声を掛けてきた。おつきの少女を連れている。

「はい、マドモアゼル」

書きかけの代筆から顔を上げ、応えた。

「マダムよ」

「失礼しました、マダム」


 最初に奥さん(マダム)ではなくお嬢さん(マドモアゼル)と呼びかけるのは、こういう商売の鉄則だ。実年齢より若く見られる方が無難だから。やりすぎると嫌味になるから、注意が肝要だけど。

 それにしても、この「マダム」は、随分若く見える。そして、言葉に軽いなまりがある。


「恋文の代筆をお願いできなくて?」

 おずおずと貴婦人は切り出した。妙に物慣れない感じだ。

「もちろんです、マダム」


 足音を忍ばせるようにして、彼女は室内へ入ってきた。玄関ドアは開けたままだ。なにしろ一間きりしかないから、外から丸見えである。


「では、まず聞き取りをさせて下さい」

彼女が席に着くと、俺は申し出た。

「聞き取り?」

「ええ。どういったラブレ……恋文を書くか、その基礎となる情報が必要なんです」

 ちらりと、貴婦人の目が開け放した玄関へ向けられた。

「扉を閉めてもよろしいでしょうか、マダム」


 これからどんなことが語られるかわからないが、ある程度のプライバシーが曝け出されることは間違いない。誰かに聞かれることを恐れるなら、ドアは閉めておいた方がいい。

 貴婦人はためらった。

 男と一緒の部屋にいることを警戒しているのだろうか。けど、おつきの少女がいることだし、何よりこのボロ長屋では、ちょっと大きな声を出せば、周囲に筒抜けだ。


「そうしてちょうだい」

 結局、彼女は同意した。俺は立ち上がり、玄関を閉めた。

「まずは、お相手のお名前(ファーストネーム)を窺います」

 席に戻り、質問を開始する。まずは、相手の確認だ。

「あなた、でいいわ。夫なんです」

「ご主人ですか」


 気の毒に、彼女の結婚生活はうまくいっていないのだと、俺は推測した。

 手紙のあて先が夫という例は、ないことはない。自分の元に戻ってきてくれるようにという哀願から三行半(みくだりはん)(離別・離婚宣言)まで、今まで書いた手紙は多岐に亙る。


「私、子どもが欲しいんですの」

思い切ったように貴婦人は言った。切羽詰まった眼をしている。

「それなのに、夫は、私の寝所を訪れてくれないんです」

「それは……困ったことですね」


 お相手の悪口を言ってはいけない。これも、鉄則。


「周囲から子どもを産むことを期待されているんです。それが、私が嫁いできた理由ですから。出産は、私の義務です。それなのに、私のお腹はいつまで経ってもぺっちゃんこ。だってそうでしょう? いったいどうやって子を作れと言うの? 夫が床を共にしてくれないのに」

 堰を切ったように貴婦人は話し始めた。気の毒に、よっぽど悩んでいたようだ。

 それにしても、子どもを産むことが義務? このご婦人は、かなり身分のある方に違いない。







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