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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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43 ひどい男

※ヴァーツァの「今」です


 「ぐぇっ」

 叫んでヴァーツァは飛び上がった。午睡用の毛布が下に落ちる。

「どうした?」

 傍らでアンリ……この国の新しい王が、読んでいた本から目を上げた。

「踏みつぶされた」

「踏みつぶされた?」

「いやらしい生霊、って言われて」

「それはまた。で、誰に?」

「俺のシグ……誰でもいいだろ」


 突っ慳貪な親友の返答に、アンリは苦笑した。


「おいおい、それが国王に対するものいいか」

「ここは戦場でも宮殿でもないからな。俺の屋敷だ」

「だからって、王の前で居眠りとは、怪しからんな。しかも、俺といながら、他の男のところへ魂を飛ばしていたとか」

「言ったろ。俺の屋敷だ。何をしようと俺の勝手だ」

「許しがたいね。不敬罪で縛り首にでもしてやろうか」


 ヴァーツァは肩を竦めた。もちろん、親友がそのような暴挙に出ることはないとわかりきっている。ましてや、死んだと思っていた戦友が、思いがけず生きていて、自分の元に戻ってきたのだから。


「アンリ、君も君だぞ。王都のカルダンヌ邸(俺の家)を売り払うとは、良い度胸じゃないか」

 皮肉を含んだ口調だった。だがアンリもまた、一向に、怯んだ様子もない。

「君は死んだと思ったんだ。ご両親はとうに亡くなり、双子の弟さんも生まれてすぐ亡くなったろ? カルダンヌの屋敷は、相続する人がいない。だから国庫に入れたんだ」


 ヴァーツァの双子の弟バタイユについては、不死という属性を隠す為、出生時に死亡したということにしてある。


「使用人たちがいたろ?」

「やつらはみんな、ゾンビだし」

「彼らはどうした?」

しつこくヴァーツァが問い返し、アンリは眉を顰めた。

「おや、珍しい。ゾンビ共の行く末を心配するとは」

「俺の大事な使用人だからな」


 紫の瞳がぼやけ、赤と青の斑点が飛んだ。夢見るような瞳に、アンリは見入った。


「ヴァーツァ。君、変わったな。非情なのが取り柄だったのに」

 揶揄するような言い方にも、ヴァーツァは取り合わなかった。アンリは肩を竦めた。

「安心しろ。公共墓地に葬った」

「いずれ取り返しに行く」

「勝手にしろ」


 めんどくさそうにアンリが言い放つ。ヴァーツァは口を尖らせた。


「何度も言うが、屋敷を売り払うとは、ひどい」

「君の墓を造ってやろうと思ったのだ。立派な墓をな」

「ベルナ山の頂上にか?」


 ……「陛下は貴方の親友なんかじゃない!」

 ヴァーツァの脳裏に激しい糾弾が蘇る。あの時は、どうしても認めることができなかった。

 ……「陛下は、貴方の墓を、軍の仲間やペシスゥスの民から隔離しようとしたんだ」

 うっすらとヴァーツァの眉間に皺が寄った。アンリは気がつかない。


「『ベルナの山がカルダンヌ公の墓の台座となるのだ』」

 謎かけのように王は口ずさむ。

「なんだ、それは?」

「いにしえの偉人の言葉だよ。かの偉人が、友を葬った時の言葉を、ちょっと借用してみた。友の名を君のにすげ変えて」

「なんだか知らないが、そういうのを無駄遣いと言うのだ。俺の墓なぞ、棒きれ一本で十分だと言っておいたろ?」

「そうもいかん。君は英雄だからな」

「その英雄の墓を造るのに、そいつの屋敷を売り払う奴がどこにいるか。しかも、俺はまだ、生きているんだぞ?」

「まあ、いいじゃないか。こうして買い戻してやったのだから」


 にっこりと笑うと、アンリは、甘えるようにヴァーツァの胸にもたれかかった。

 黒い髪と豪華な金色の髪が入り混じる。


 どれほどの時間が経ったろうか。

 先に離れて行ったのは、黒髪の方だった。


「アンリ、そろそろ宮殿へ帰れよ」

「なんで?」

 不服そうに金色の頭が擡げられた。バラ色の頬をしたアンリは、口を尖らせている。

「なんでだと? 君、婚礼を済ませたばかりじゃないか」

 即位したばかりのペシスゥス新王アンリは、隣国フォルスから王妃を迎えたばかりだ。


「俺には癒しが必要だ。もう少し、こうしていたい」

 甘い声で囁いて、ヴァーツァの胸に凭れ掛かる。

 ヴァーツァは体を離した。

「いいから、今日はもう帰れ。民は、君に王子が生まれるのを今か今かと待ち望んでいる。後継ぎのいない王制は、不安定だからな」

 アンリはむくれた。

「なんだよ。人を種馬のように」

「実際、その通りだろ。王の宿命というものだ」


「ひどい男だ」

 アンリは起き上がり、上着を羽織った。そのまま部屋の入口へ歩いていく。

「ひどい男だ」

 振り返り、もう一度、繰り返した。




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