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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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39 浜辺の怪

 トラドの言った「後ほど」の意味はすぐに分かった。

 というか、これ……。

 島の浜辺には、大量の棺が並んでいた。各々の棺の前には、生気のない人たちが、陰気な顔をして佇んでいる。

 カルダンヌ家の使用人たちだ。


「シグモント様!」

 自分の棺の前から嬉しそうに駆け寄ってきたのは、メイドさんだ。名前は、確か……。

「キャサリンさん」

「わたくしの名を覚えてくれたのですね?」


 青白い顔が一層青くなった。つまりこれは、普通の人間なら赤くなったという事だ。吸血鬼やゾンビは、頬が紅潮するのではなく、退色するようだ。

 キャサリンさんは、名前を憶えて貰ったことが、よほど嬉しかったのだろうと思う。自慢の名前なんだ、きっと。


「それはそうと、キャサリンさん。これはいったいどういうことです?」

「皆、貴方様とご一緒に島を出ます」

「えっ!」


どゆこと?


「現在、ご主人様は大荒れに荒れていらっしゃいます。このままここにいたら、私たちはどうなってしまうことか……」

 キャサリンの言葉に、使用人一同、首をかくかくと上下に振った。どうやら、そうだそうだと頷いているようだ。


「シグモント様は、ご主人様から、私の肋骨を守って下さいました」

進み出たのは、コックだ。

「ここしばらく、ご主人様は落ち着かれ、私どもの四肢を千切ったり、首を刎ねたりすることもありませんでした。全ては、シグモント様のお陰です」

「そんな、過大評価です」


 俺にヴァーツァを宥める力などない。そんな力があったら、今でも彼の傍らにいた。


「いいえ。ご主人様にはシグモント様が必要なのです。貴方様がおそばを離れられたら、あの方は、いったいどうなってしまわれるのか……」

 御庭番のケビンが出てきて嘆く。

「そして、私たちの静かで穏やかな生活もここまでです。明日からまた、恐怖のお仕えが始まるのです」


 ヴァーツァはそこまで使用人たちに恐れられていたのか。

 頬をぽっと青くして、キャサリンが歩み寄る。


「ですので、私どもも、シグモント様とご一緒に島を出ることにしました」

 あまりのことに、俺は目をしぱしぱさせてしまった。

「でも皆さんは、ヴァーツァから離れたら困るでしょう? 皆さんの身体は、ヴァーツァの魔力で形を保っているわけですから」

 だから怪我で彼の魔力が弱っている間、使用人たちは地下で眠っていたのだ。


「私どものことは、どうぞお気遣いなく。各自の棺を持参しますゆえ」

「……」

 浜辺にいっぱいに並べられた棺を、俺は見回した。吸血鬼(トラド)だけじゃない。ゾンビも柩で蘇るのだろうか?

「できるだけ長くこの姿を保ち、カルダンヌ公から頂いた魔力が切れた暁には、体がバラバラになる前に、棺に潜り込むことに致します。そのうち、新たなネクロマンサーとの出会いがあるでしょうから」


 キャサリンが言い、再び全員が首をかくかくと上下に振る。まるで、浜風に吹かれた枯れ枝のようだ。


「けっ、けれど、こんな沢山の棺、船に乗り切れるでしょうか?」

 係留された小型船には、既に古ぼけた柩が一つ、乗せられていた。トラドの柩だろう。小さな船にはもう、俺が乗るだけの余地しか空いていない。

「それはもう、何往復してでも。貴方様とご一緒する為に」

 御庭番のケビンがこぶしを握り、虚空を見上げる。断固とした決意だ。


 俺は焦った。

「で、でも、ですね。皆さんがいなくなったら、ヴァーツァが困るでしょう?」

「ああ、お優しい。あんな横暴なご主人様の心配をなさるなんて」

 キャサリンが両手を揉みしだいた。あまりに強く捻るので、骨が折れてしまわないか気が気ではない。

「いやいやいや。ヴァーツァは貴方がたの主人でしょう? 長年の奉公の間には、彼にだって少しは良い所があったのでは?」

「カルダンヌ公の御長所は、全てあなた様がこの島へ渡られた後に表れましてございます」

 ぴしゃりとコックが言い放った。

「それ以前のあの方は、完璧な暴君、横暴極まる主人、恐怖の大魔王でございました」

「……」


 何と言ったらいいかわからない。でも、否定できない気がする。俺もいろいろ見ちゃったし。


「わかりました。とりあえず、ご一緒しましょう」

 俺が言うと、陰気な喜びが、使用人一同に広がった。誰からか、かくかくと骨が鳴る音がする。

 思わずため息が出た。

「もうすぐヴァーツァは王都へ旅立ちます。俺の住処も王都だから、落ち着いたら皆さんを、彼の所へお連れするというのでどうでしょうか」


 そして、魔力をチャージしてもらい、その後はまた好きにしたらいいと思った。

 って、こんなにたくさんの柩、俺の部屋に入りきらないよ。どうしよう。


 ところが、俺が言い終えた途端に、使用人たちが色めき立った。


「なんですと? ご主人様は王都へ行きなさるのか」

「そして、シグモント様のお住まいも王都なのですね」

「なら、何の問題もないじゃありませんか」

「ご主人様のことですからね」

「欲しい物を手に入れる時の強引さだけは評価できる」


 集まったゾンビたちは、一斉に回れ右をした。

 各々自分の棺を引きずって歩き始めた。砂の上に、棺を引きずる痕が長く伸びていく。


 唖然として俺は、立ち去っていくカルダンヌ家の使用人たちを見送った。


 ただ一人浜に残った御庭番のケビンが小舟に飛び乗った。彼は、俺とトラド(の入った柩)を、本土まで運んでくれた。





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