28 キッチンでヤるのは男の夢
無茶苦茶に抱きしめられ、所かまわずキスされる。俺の顔は、彼の涎でべたべただ。
「ヴァーツァ、」
息も絶え絶え、俺は言った。口を塞がれ、酸欠なのだ。
「ん? んんん」
やっと声が出た唇をまた塞がれる。
「だから、ヴァーツァ!」
その場に押し倒そうとするから、突き飛ばした。
「キッチンでやるのは男の夢だ」
めげずに彼は、俺を流しに押し付けようとする。
「ちょっと! カルダンヌ公!」
「ヴァーツァだ。わかった。ここがいやなら……」
一向に諦める気配もない。エプロンをめくり上げようとする手を思いきり叩いた。
「そういうことじゃなくて!」
「君は俺のことが好きなんだろ? 俺のことをもっと知りたいと思ってるんだ」
「す、好きなんかじゃない……」
だって、そう言うしかないじゃないか。この状況を回避するには。
ヴァーツァは余裕の表情だ。
「はいはい。君の気持はわかってるって。だって、さっき告白したばかりだもんな」
「してない!」
「したよ。だが、安心しろ。俺は君を飽きたりしないから」
低く笑った。
「君みたいな人を、飽きたりなんかするもんか!」
「……え?」
「君みたいな愉快な人間は初めてだ」
「……」
微かに膨らんだ希望が急速にしぼんでいくのを感じた。やっぱりヴァーツァにとって俺は、一時的な退屈凌ぎにすぎないんだ。
「ああ、バタイユの監視を気にしているのだな」
負けない男がのしかかって来た。
「急いでやれば大丈夫」
「そういうことじゃない!」
思わず叫んでしまった。
ヴァーツァの顔が曇る。
「そうだよな。こういうことは、急いではいけない。ゆっくりと時間をかけなくては。まったく、バタイユのやつ、いけすかない魔法をかけていきやがって……」
ぶつぶつと文句を言っている。
子どもの姿をしているが、バタイユの魔力はヴァーツァを凌ぐ。
「俺がいい思いをしていると、きっとあの子が現れるんだ。それが自分の寝室であろうと、娼館であろうと。双子って怖いな」
絶句した。それは、いろいろまずい気がする。
「あの子に見られたんですか? そんな、あんな子どもに、あられもない姿を見られるなんて!」
「気にするな。ああ見えて、俺と同じ年齢だ。それに何度も見ていれば、耐性もついてくるというものだ」
「何度も!?」
そりゃ、ヴァーツァくらいの美形なら、過去にそういう経験もあったかもしれないけど……何度も?
エプロンを剥ぎ取り、シャツの下に侵入してきた手をぴしゃりと叩いた。
「無理です! 俺は無理!」
「仕方がない。無理強いはしない。俺は紳士なのだ」
ネクロマンサーの紳士。弟に濡れ場を見られても全然平気。しかも、何度も。
なんかもう、いろいろ無理がありすぎる。
ヴァーツァはむくれ、しぶしぶ手を引っ込めた。




