27 嫉妬
ヴァーツァの顔に笑みが浮かんだ。含み笑い?
「あんなにたくさんあっても、死体は誰かが操らなければ動かない。彼らが動けば、この館はもっと快適になる。君が料理をする必要はなくなる。トラドやメルルの負担も減る」
それが何を意味するのか、咄嗟にわからなかった。料理。トラドの負担?
「地下室で眠っているのは、カルダンヌ家の使用人たちだ」
「使用人達の遺体……」
やっぱり噂は本当だったんだ。犠牲者が、行きずりの人から使用人に変わっただけで。ヴァーツァは片っ端から使用人たちに手を出して、女も男も関係なく手を出して……最後には全員殺してしまったんだ。
使用人を殺すなんて。それも、皆殺しなんて。一人一人ベッドに呼んで、優しく耳元で偽りの愛を囁いて、そして……。
「なんてひどい」
「そうだな。早く体力を回復しなければ、彼らに恨まれる」
頓珍漢なことを、ヴァーツァが言う。
「今でも充分恨まれているよ。殺して地下室に閉じ込めておくなんて」
もしかしたら、一晩で数人を殺したこともあったのかもしれない。つまり、一晩で複数人を相手に……。
目の前がちかちかした。
やっぱりこの男は人でなしだ。
ヴァーツァが首を傾げた。
「ん? 殺したのは俺ではないぞ」
「……え?」
胸に希望が灯った。
だめだ。希望を抱くなんて不謹慎だ。とにかく。使用人たちは亡くなったのだから。
「疫病が流行ったの?」
それなのに希望を抱く自分が忌まわしい。希望……彼らはヴァーツァに愛されたわけではないという希望だ。
「死因はさまざまだ。俺もよく知らない。いや、調べればわかるんだけど、書類仕事は苦手で」
頭を掻く。
「でも、そんなことしなくても、当人に聞けばわかることだ」
「聞く? 死骸に?」
「そうだよ。まさか忘れたんじゃあるまいね。俺はネクロマンサーだ。遺体を蘇生させ、使役することが俺の領分だ」
ぽかんと口が開いてしまった。俺はヴァーツァを眺めた。朗らかで美しい彼を。
「明日にでも彼らを蘇らせよう。カルダンヌ家自慢の使用人たちだ。きっと君は満足することと思う」
ゆっくりと頭が回転を始めた。
メルルは死骸だと、ヴァーツァは言っていた。死骸を使役していると。だから、壁に叩きつけられても、すぐに蘇った。
同じことが使用人にも言えるのかもしれない。
彼らはもともと死体だった。ヴァーツァが使役し、初めて動くことができる。
見上げる男の顔に笑みが浮かんだ。
「それにしても、女性? 気にしていたのはそこなんだな」
手を伸ばしてきた。
「俺が彼らを殺したかもしれないという疑惑より、俺が彼らと寝たかもしれないという疑いの方が、君を傷つけたのだろう?」
図星を刺されて、俺の頬に音を立てて血が上った。
「ち、ちが、ちが、」
必死で否定する俺を、ヴァーツァがにやにや笑いながら眺めている。
「違わない。嫉妬してくれて嬉しいよ、シグモント。最初のキスの後、君は全然積極的でなかったから。むしろ俺を避けていたろ?」
理解するのに時間がかかった。
言葉の意味がわかった瞬間、俺は彼に抱きすくめられていた。




