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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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25/38

25 疑惑


 ベッドの中で(!)互いのトラウマを話し合った日から、ヴァーツァとの距離は、少しだけ近くなった気がする。

 ヴァーツァは、以前のように尊大な態度を取ることはなくなった。むしろ、甘えてくるようになった。あーんと本の朗読はその前からだったが、とにかく俺をそばから離さない。食事の支度さえままならないくらいだ。


 けれど、調理は俺がしなくてはならない。トラドに任せると、サービスのつもりか、血を大量に入れるから、スープは赤くなるし、焼いた肉は生臭い。トラドには悪いが、こんなものをヴァーツァに食べさせられない。

 メルルと彼の眷属に料理をさせるなんて、とんでもない話だ。彼らは火を使えないし、かろうじてサラダは作れるけど、毛まみれだ。

 俺がいないとヴァーツァは不機嫌になる。だから、彼が眠っている間に料理をするしかない。

 畑の手入れもしなければならないのに、本当に難儀なことだ。


 大急ぎで蕪と玉ねぎを収穫し、泥だらけのそれらを籠に入れて調理場へ運ぶ。

 地下室の前を通りかかった。

 地下室。

 決して忘れていたわけではない。

 そこには大量の柩が安置されている……。


 けれど、あれは本当に柩だったのだろうか。だって、ヴァーツァには悪しき気配は全然ない。この頃は、かわいい、といったら言い過ぎだけど、俺に甘えて来る彼は、ごく普通の、少し年上の男だ。信じられないくらい美しいことが特徴の。

 そんな彼が、地下室に遺体を大量に隠している? 


 誰かれ構わず引きずり込んだのは事実かもしれないが、必ずしも殺してしまったとは言い切れないのではないか。そもそも、王都の異常が彼の霊障だというのも誤りだったわけだし。

 きっとあれは、柩ではないのだろう。中に入っているのは大量の本か食器か、とにかく、害のないものに違いない。


 ……でももし、噂が本当だったら?

 たくさんの女性をさらってきて、飽きたら殺してしまうという、噂。

 ……女性。

 俺は男だ。()()()()()()()()、ヴァーツァに愛されることはない。

 きっと。たぶん。今はただ、物珍しいだけだ。

 突然、疼くような寂しさに、立っていられなくなった。しゃがみ込み、懸命に息を整える。

 ……確かめてみよう。

 本当に棺の中身は、死骸なのか。ヴァーツァが飽きて捨て去った女性たちの。つまり本来のヴァーツァは、女性を愛する男なのか。男性ではなく。

 その場合、俺の可能性はゼロということになる。

 ははは。いいじゃなか。そうならそうで。いっそせいせいする。

 ただ、ちゃんとわかっていないと、どっちつかずで、踏ん切りがつかない。


 幸い、といっていいのかわからないけど、鍵は掛かっていなかった。空気を入れ替えると言って、トラドは頻繁にここのドアを開け放っている。ちょうど今日は、その日に当たっているようだ。

 吸血鬼の執事は、夜になるまで起きて来ない。

 ヴァーツァはよく眠っている。

 確かめるなら今しかない。

 あれらは本当に、棺桶なのか。中に納められているのは、()()()死骸なのか。


 念のため辺りを見回してから、そっと地下室への階段へ足を踏み入れた。昼間だというのに、相変わらず中は薄暗い。一段一段、慎重に下りていく。

 下り切ってしまうと、一番近い棺……というか、箱に近づいた。人一人ゆうゆうと寝られるほど巨大な箱だ。埃だらけの蓋を日常魔法の灯りで照らすと、複雑な彫刻が施されているのが分かる。

 随分古風な彫刻だ。中にはきっと、芸術品が納められているのに違いない。それか、古い本の類か。だってトラドは、湿気を極度に排除したがっている。


 蓋は、釘などで打ちつけられてはいなかった。縁を掴み、両手で思い切って持ち上げた。

 どっとかび臭い匂いが流れて来た。ミルラ*の強い香りも。

 少し遅れて、灯りが中を照らした。

 白い頭蓋骨が揃った歯を剥きだして、こちらを見返していた。






*ミルラ

  香木。この場合は、防腐剤として用いています

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