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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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20 巨大フクロウの飛翔

 俺がヴァーツァの看病をする? 冗談じゃない。俺はこの城から脱走する途中だったのだ。

 地下室に棺桶がたくさん並んでいたり、吸血鬼が執事だったり、こんな気味の悪い城にいつまでもいれるか!


「ヴァーツァの看病はバタイユ、君が担うべきだ。だって君の得意魔法は治癒魔法だろ?」

 激しく抗議した。

 心のどこかで、その方が安心だという打算があった。俺じゃだめだ。俺には治癒魔法が使えない。ヴァーツァはバタイユに任せた方が、絶対いい。彼の為に、安心だ。

 それなのにバタイユは首を横に振った。

「やれることはすべてやった。もう魔法の領域じゃない。後はしっかり静養するだけだ」


 どうにも腑に落ちない。バタイユが、あんなに大好きな兄のそばから離れようなんて。俺に看病を押し付けてくるなんて。


「君はヴァーツァが大好きなんだろ? 彼の側にいたいと思わないの?」

「好きだよ。でも、意志に逆らってじっとさせておくのは苦手というか、かわいそう。そういうのは、シグモント、君の方が得意そうだ」

「そんなことはない!」


 ヴァーツァを大人しくさせておくことが得意な人間なんて、この世にいるのか?

 まるで重大な秘密でも口にするかのように、バタイユが身を寄せて来た。


「あのね、シグ。僕は君なら兄さんを任せてもいいと思ってるんだ」

「え?」


 不覚にもどきりとした。だってバタイユは救いようのないブラコンだ。その彼が、大切な兄を任せてもいいって言った。


「君は地味で魅力がない。話も面白くないし、一緒にいて楽しい相手では全然ない。第一、エクソシストなんて今時流行らないというか、エクソシストとネクロマンサーが戦ったら、ネクロマンサーが勝つだろ」

「そんなことはない!」

思わず反論した。

「じゃ何で今まで魔術を使わなかったのさ? トラドに襲われた時とか」

 言われて考えた。

 そうだ。吸血鬼は死霊ではないか。死霊払いはエクソシストの仕事だ。


「悪意が感じられなかったから」

 考えた挙句、言った。それしかなかった。俺は危険を感じなかった。

 この館には、マイナスの感情というもの、即ち悪霊の気配がみじんもない。

 ヴァーツァからも、ここにいるバタイユからも、そしてトラド、メルルに至るまで、善意の塊とはいわないけど、恨みつらみを抱き、あるいは、人を踏みつけたい、復讐ししたいなどの悪しき感情が、微塵も窺われない。


「ふん。つまんないの」

 バタイユは毒づいた。

「でもそんなシグだから、安心して兄さんを任せられるのさ。君は理想の看護人、それだけだ」

「君の兄さんとどうこうなろうという気なんて、俺には全くない!」


 断言した。だってあんな美しい男と……美しく傲慢で、そして残酷な男。館の地下室に、大量の棺桶を並べておくような男と。

 赤い瞳を輝かせたまま、バタイユがにたりと笑った。これが白魔法の使い手なんて、とても思えない。


「まあいいさ。シグモント、君は日常魔法を使える。生活に不自由はないはずだ。いざとなったら、トラドだっていることだし」

「彼は、きゅ、吸血鬼だろ」

 恐ろしすぎて、噛まずに言うことができない。だって俺は危うく彼の餌食になるところだったんだし。

「トラドなら大丈夫」

 どこがどう大丈夫なのか。


 その時、窓がごんごんと鳴った。というより震動した。殆ど割れそうな勢いだ。


「フクロウが待ちかねてる」

 無謀にもバタイユが窓を開け放った。夜風がさあーっと流れこみ、力強く何かが突っ込まれた。羽だ。これがフクロウの羽なら、とんでもない巨鳥だ。

 あきれたことにバタイユはそれに飛び乗った。

「ひっ!」

 隣の窓から黄色い目が覗いていることに気がついて、俺は息を呑んだ。


「じゃ、兄さんを頼む。僕が戻って来るまでに元気にしておいてね!」

「え? おい、ちょっと、バタイユ!」

 甲高い笑い声を残し、バタイユを載せた巨大フクロウは、天空の彼方に飛び去って行った。




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