2 王都異変
王都で怪異が頻発した。
まず、内務大臣が死んだ。王宮を出たばかりの所を、雷に打たれて亡くなった。
文句ないほどの晴天だった。それで大臣は、王宮前広場をそぞろ歩こうという気まぐれを起こした。
ところが、彼が歩きだした途端、空は俄かに掻き曇り、怪しい濃い色の雲が押し寄せて来た。
王宮に戻ろうとした時には時すでに遅く、派手に空を切り裂いた稲妻の先が、大臣の頭にちょんと触れた。大臣はきりきりと舞い上がるように体を捩り、絶命した。
次に、警察大臣が死んだ。
ちょうど、王宮の離れで改修工事が行われていた。何を思ったか、あるいはタレコミでもあったのだろうか。日が暮れてから、警察大臣自ら、見回りに出た。豪胆な性格であったので、護衛を伴わなかった。同じ王宮内のことだから、油断もあったろう。
翌朝、彼は死体となって発見された。卒中を起こし、誰にも見られないまま絶命していたという。
それから、国王陛下の崩御。
陛下の場合は、年齢も年齢だから、特に怪異とは言えない。
ただ、あまりに突然だった。前日まで全くのお元気で、寝室には寵姫を侍らせていたくらいだ。
翌朝、ペシスゥスの国王陛下は崩御され、第一王子アンリ殿下が即位された。
王族・要人の相次ぐ突然死に王都は騒然とした。
そこはかとない不安が都を覆い、町の活気は失われた。人々は互いに顔を見合わせ、暗くなる前にそそくさと家路を辿っていった。
加えてその年は、気候の異常が相次いだ。普段は穏やかな雨が降る春には容赦ない豪雨が襲い、川沿いの村や町を押し流した。
続く夏は、あまりの猛暑に何人もの人死にが出た。死なないまでも、あまりの暑さに夜も眠れず、肉体や精神に異常を来す者が大勢いた。
ようやく秋が来たかと思ったら、信じがたい大風が吹きすさび、生り物は熟す前に枝から落ち、畑の作物は水気を飛ばされて黄色く枯れてしまった。
このまま冬が来たらどうなってしまうのだろう。
新王アンリ陛下の即位式が賑々しく行われる傍らで、人々の心は暗い影に覆われていた。
他にも、臭い汁をまき散らす虫が大量発生したとか、宮殿の屋根裏を黒い鼠の大軍が跋扈したとか、不吉な出来事が相次いだ。
王宮の祈祷師が占ったところ、一連の出来事は、とある人物の霊障であることがわかった。
ヴァーツァ・カルダンヌ公爵。
前年の戦いで戦死した陸軍総司令官でもある。
カルダンヌ公は、新王アンリ陛下の御学友でもあった。幼い頃から机を並べていた二人は、長じて同じ軍に入り、カルダンヌ公は、当時はまだ王子だったアンリ殿下の盾となった。
二人は固い友情に結ばれた親友だと言われていた。
去年、西の国境に、蛮族が押し寄せて来た。
王子自らが征伐に赴き、それまでの全ての戦いと同じく、カルダンヌ公も同行した。
そして、公は戦死した。王子を庇っての潔い死だったと、軍の広報で報じられた。
信頼していた部下で、かつ親友でもある公爵の死に、アンリ殿下は深く悲しまれた。カルダンヌ公の墓はこの国一番の霊峰、ベルナ山の頂上に造営されることが発表されたばかりだ。殿下の、せめてもの餞だったのだろう。
だがしかし、王室祈祷師は喝破した。
王都を恐怖に陥れている一連の怪異はヴァーツァ・カルダンヌ公の霊障によるものだ、と。
つまり、王都は死んだ英雄に呪われているのだ。




