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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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13 アンデッド

 「なんでこんなん、連れて来るんだよ」

 バタイユがぷんぷん怒っている。バタイユというのは、カルダンヌ公ヴァーツァの弟だ。


 光の渦に巻き込まれ、連れて来られた先は、古い城だった。周囲は岩に囲まれ、その向こうに煌めく青い海が見える。

 どうやら離れ小島の古城のようだ。


「こんなんで悪かったな。俺だって好きで連れて来られたわけじゃない」


 子ども相手に、意地になって言い返してしまった。

 つか、ここ、どこ?

 なぜ俺がこんなところに?


「だって君は俺を愛しているんだろ? だから連れてきてやったのだ」

 ヴァーツァはテーブルについていた。優雅に紅茶茶碗を傾けている。


「お黙りなさい! 悪霊退散!」


 杭を突き付けようとして愕然とした。

 ない。銀製の杭は、あの礼拝堂に置いてきてしまった。


「悪霊? ひどいな」

 言いながら、悪霊は落ち着き払って紅茶を啜る。


 俺にはわかっていた。彼は、自分が死んだという自覚がないのだ。無自覚な悪霊というのは、タチが悪い。知らず知らずのうちに、生者に霊障を及ぼすからだ。

 夜はすっかり明け、部屋の中は、爽やかな朝の光が満ち満ちていた。このすがすがしい空気の中、容赦なく真実をつきつけることにした。


「カルダンヌ公、貴方は死んだのです。貴方の御遺体はエシェック村に置き去りにされましたが、魂の方は悪霊となって、王都で狼藉の限りを尽くしました。天災を起こし、要人を殺し、多くの人を恐慌に陥れました」

「悪霊? ちょっと待ってくれ。俺はあの棺の中で眠っていただけだ。死んでたわけじゃない」

「……へ?」


 まじまじと俺は、目の前の男を見据えた。

 軍服は窮屈とかで、彼はシャツ姿になっていた。白いシャツと金色の髪、そして健康そうなバラ色の頬。瞳の色は、夕べよりは薄い、すみれ色に見える。


「そうだよ。兄さんは死んでなんかない」

 弟のバタイユが口を出す。彼は木馬に跨って揺らしていた。子どもが喜ぶ遊びだ。だが、普通の子どものようには全然見えない。礼拝堂の中は暗くて気がつかなかったが、彼の眼球は、真っ赤だったのだ。

「兄さんが入っていたのは、厳密には棺じゃない、療養箱だ。僕が造った。今回の傷は、さすがの僕にも手に負えなかったからね。治すのに時間がかかった」

 弟が言うのに、兄が補足する。

「バタイユはアンデッドなんだ。この子は俺のことが大好きでね。だから、7歳の魔法選びの時に、治癒魔法を選択した」


 大好き? さりげなく凄い言葉を聞いたような……?

「つまり、君が魔法を用いて、ヴァーツァを治療したと?」

「その通り」

俺が問うと、得意げにバタイユは頷いた。

「つまり、ヴァーツァは……」

「死霊でも何でもない。兄さんは普通に生きているよ」

「……」

呆気にとられ、俺は声も出ない。なら、王都の大騒ぎは何だったのだ? いったいなぜ俺は、あんな辺鄙な村へ出向いたんだ?


一方のバタイユは得意げだ。

「治癒魔法は、兄さんに使うために選択したんだよ、もちろん! 僕は兄さん専属の治癒師だ!」

「わかってるさ」

鷹揚に兄が頷く。二人はすっかりわかり合っているようだ。


 ペシスゥスの貴族は、9歳の時に、主として自分が使う魔法を選ぶ。いわゆる専門魔法の選択だ。何の魔法を選ぶかは、本人の属性による。


 稀にだが、属性ではなく、自分の好きな魔法を選ぶ者もいる。ただしこの場合は、自分の属性を無視するわけだから、何でも選ぶことができるほどのオールマイティな能力を必要とする。専門魔法を選べたバタイユは、だから相当の魔術の使い手なのだろう。


 専門魔法が決まってからは、その魔法に特化した教育を受ける。魔法学校もあるけど、大貴族であれば、選りすぐりの家庭教師がつけられる。カルダンヌ公爵家の子息なら、間違いなく家庭教師による教育を受けただろう。


 ちなみに、時として平民でも魔法が使える者が生まれる。俺みたいに。

 幸い俺は修道院で教育を受けられたけど、普通は、きちんとした魔法の知識なんか授けて貰えない。その結果、大抵の者は魔力が暴走し、悲惨な末路を迎える。


 弟のことがよほど可愛いのだろう。ヴァーツァの頬に笑みが浮かんだ。その兄に、バタイユがすり寄っていく。なんだか必死の顔をしている。


「兄さんにはずっと生きていて貰わなくちゃ困るんだ! 父上も母上も早くに亡くなられて、兄さんまで死んじゃったら、僕はひとりぼっちになってしまう!」

「大丈夫だよ。バタイユ、お前はいい子だ。俺がいなくなっても、誰かがきっと、お前を愛してくれる」

「そんな人、いるもんか!」


 ヒステリックにバタイユは叫んだ。聞き分けのない声は、とても孤独で痛々しい。その姿は、俺自身を見ているようだ。

 会った最初から、バタイユには意地悪ばかり言われてきたが、この時初めて、この子に親近感が湧いた。


 ヴァーツァが俺に向き直る。


「俺はアンリ殿下と一緒に軍に入ったけど、バタイユは、ほら、見ての通り少年の見た目だから、入隊が許されない。けれど、俺が戦闘で怪我をするたびにすっ飛んできて、治してくれるんだ」


「アンリのやつ……僕を兄さんから引き離すなんて!」

赤い目に怒りが燃えている。

「こら、バタイユ!」

厳しい声でヴァーツァは弟を叱りつけた。

「殿下のことを悪く言ったら許さない」


 そのアンリ殿下(即位した今は陛下だが)を庇って、ヴァーツァは死んだ……もとい、大怪我を負った。

 やっぱり二人の間には、友情があったのだと俺は思った。ヴァーツァはアンリ陛下の親友だ。アンリ殿下の方はどう思っているかわからないけど。だって彼は、傷つき、仮死状態となったヴァーツァを戦場に置き去りにした……。


「ごめんなさい」

しゅんとしてバタイユは項垂れた。

 ヴァーツァが俺を見て、ほろ苦く微笑んだ。

「おかしいだろ? アンデッドが治療魔法を使うなんて」

 俺の頭の中でようやく言葉が意味を結んだ。

「アンデッドだって?」





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