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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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11 蘇った死霊

 「誰?」

 前を向いたまま、尋ねる。答えを聞くのが怖い。あるいは、これ以上、何も聞こえてこないことが。

 それに答えはわかっている。ただ、これが正答だと認めることは難しい。

「そこにいるのは誰だ!?」


背後から、ふうーっとため息が聞こえた。

「君は俺を知っているだろう? ヴァーツァ・カルダンヌ。君の最愛の恋人だ」


「俺の最愛の恋人?」

我を忘れて振り返った。

「いったい、何の権利があってそんな風に名乗るんだ?」


 無理やり首を捻じ曲げて、後ろを振り返った。そして気がついた。アメジストのように輝く紫色の二つの瞳が、自分を見つめていることに。

 そうだ。今までこの人の瞳の色を知らなかった。

 だって、死んだ男は、固く目を閉じていたから。


「君は、あんなに熱い眼差しで俺を見つめていたじゃないか。君は俺の髪に手を差し入れたいのだろう? 君は俺の頬を優しく撫でて、抱きしめたいのだ」

「ち、違う!」

 反射的に否定した。

 音を立てて頬に血がのぼっていくのを感じる。

 ヴァーツァと名乗った死霊は不服そうだ。


「だって君は俺に口づけをしたよな。ガラスにだけど」

「黙って! お願いだから!」


 全てバレてた? 俺の気持ちなんてお見通し?

 羞恥でどうにかなりそうだ。


「だってその通りだろう、シグモント・ボルティネ」

「どうして俺の名を?」


 恥ずかしさに身悶えしながら問うと、ヴァーツァは、目線で倒れ伏している強盗達を指示した。口の端が歪み、僅かにおかしそうだ。


「君が彼らに名乗ったのを聞いていたのだ」


 言いながら、腕の中の俺の身体をぐるりと回す。

 改めて顔と顔が向き合った。


 やっぱりこの男は美しい。だが、さっきまでとは、印象が全然違う。生き生きとした眼の光は、静かな美しい男を、別人のように変えてしまっていた。

 瑞々しい生命力と躍動感。今、まさに生きているのだという、傲慢なまでの存在感。


 全然違う。瞳を閉じて棺に横たわっていた時と。

 静謐さは消え失せ、荘厳なまでの美しさは影を潜めた。代わって精彩に満ちた躍動感に満ち溢れている。


 かろうじて横目を使い、棺を確認した。

 台の上の、ガラスの柩の蓋は、大きく横にずらされていた。白い絹の褥には寝た跡があり、濃厚な薔薇の香りが鼻を衝く。


 印象は変わったが、俺を抱きしめているこの男が、中に横たわっていた死骸であったことは間違いない。

 ようやく呪文が効いたのだと思った。悪霊が、死骸に帰ってきた。

 そうだった。この男は悪霊だ。


 ……杭!


 銀の杭は、台の下に落ちていた。

 俺は思いきり頭を上げ、ヴァーツァの顎に頭頂部をぶつけた。


「っ!」


 声なき悲鳴が聞こえた。そして俺の頭も痛かった。けれど、それどころではない。屈んで素早く銀の杭を拾い上げ、振りかざした。


「アイン イーヒィ アン アジン」

「何?」


 怪訝そうな顔をしている。自分に靡かないやつはいないと思っているやつの、傲慢な顔だ。俺の最も苦手とするタイプだ。


「アイン イーヒィ アン アジン、アイン イーヒィ アン アジン」

 必死で唱え続けた。……悪霊払いの聖なる呪文を。


「何を言っているのか全く理解できないが、せっかくこうして起き上がったのだ。君の願をかなえてあげる。さっきはガラスに邪魔されてできなかったからな。さあ、続きをしよう」


 悪霊払いの呪文を浴びたにもかかわらず、ヴァーツァは消えるどころか、揺らぎもしない。全然苦しそうじゃないし、それどころか俺に向かって手を差し伸べてきた。


「アイン イーヒィ アン アジン!」


 唱えつつ銀の杭を降り上げた。

 胸に。胸を狙うのだ。

 生き生きしていようが、生命感躍動感に満ち溢れていようが、俺は騙されない。

 悪霊は悪霊だ。

 恋とか愛とか……、いいや、俺はエクソシストだ。悪霊を祓い、生者の世界を守るのが、俺の仕事だ。





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