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王都怪異事件簿――ネクロマンサーの不埒な恋を祓うには  作者: せりもも


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10 絶体絶命

 「なんだここは。真っ暗じゃないか」

 どうやら強盗達は、簡単な日常魔法さえ使えないらしい。つまり、一般的な平民ということになる。


「辛気臭い部屋だな。なにもないよ、ジャック。上へ行こうぜ」

もう一人の男が促す。


「なんだ、お前。怖気ついたのか?」

「ばかな。お前も見てたろ。隣の村で、俺は5人殺したんだぜ」

「俺は7人だ」

「だがその前の村では、俺の勝ちだ。俺は10人殺した」

「半分が女で、残り半分が子どもだったがな」


 聞いていて、俺は吐きそうになった。

 こいつらは最低の強盗だ。


 壁に沿って歩いていた男が躓いた。


「いてっ! なんだ、これは?」

「燭台だ。それに太鼓もある」

「もっと金目のものはないのか」

「みろよ。戸棚がある」


 二人がこちらへ近づいてきた。まずい。カーテンにくるまり、俺は身を固くした。

 ちょうどその時、窓から月の光が差し込んだ。部屋の中が照らされ、テーブルに乗せられたガラスがぼう、と光った。


「見ろよ、ジャック。部屋の真ん中で、何か光ってるぜ」

「なんだ、あれは。お宝かな」

「だとしたら、すごい」


 俺は息を呑んだ。

 そろそろと二人は、部屋の中央、ガラスの柩に向かっていく。

 あの中には、ヴァーツァが、青い薔薇に囲まれた美しい男が眠っている。


「止まれ!」


 思わず俺は、カーテンの陰から飛び出した。柩の乗ったテーブルに走り寄り、立ち塞がる。

 男たちは立ち止まり、目を見開いた。


「なんとまあ、人がいたとは」


 しまったと思った。だが、ヴァーツァを守ろうとしたことに後悔はしていない。

 守りたいと思った。本当に美しい男だから。

「俺の名は、シグモント・ボルティネ。浄霊師(エクソシスト)だ。ここは、お前らのような者が来るところではない」


「浄霊師? 坊主ではないのか? だが、まあ、同じことだ」

ジャックと呼ばれた男がにやりと笑った。

「話を聞かれたからには生かしちゃおけねえ。気の毒だが、あんたには死んでもらうぜ」

 おもむろに背中に背負った銃を取り出した。狩猟用の散弾銃だ。


「ここは礼拝堂だ。銃は止めろ」

 ヴァーツァに当たってしまう! 薔薇に包まれた美しい男に。


「おっと、俺だって善良な皆さんの信仰の場で銃をぶっ放すのは気が乗らねえさ。音も凄いしな。だが、こっちのニコラは幅広のナイフを持っていてな」


 ジャックが手で指し示すと、ニコラと呼ばれた男がにまりと笑った。抜き身のナイフが、月明かりを受けて、ぬめりと光った。


「どっちかっていうと、銃よりナイフの方が俺の好みに合ってる」

「ナイフなら、俺だって持ってるぜ」


 猟銃を背負い直し、ジャックが腰に下げた革袋から大ぶりのナイフを取り出した。刃渡りは狭いが、剣のように鋭い切っ先をしている。


 いつ死んだっていいと思ってた。

 俺には家族はいないし、ジョアンは悲しんでくれるかもしれないが、彼以外、友人もいない。

 まともな仕事もしてないし?

 この上は苦しまないで死にたいけれど、ナイフで切り裂かれるのは痛いのかな。一突きで死ねたら、楽だろうか。


 ジャックとニコラがじりじりと迫って来た。背後に柩を載せた台があるので、逃げ場がない。


 俺は武器を持っていない。持っていたとしても、人に対して使うなんて、到底できないだろう。格闘技の経験もないし、人を殺した経験もない。人を殺してまで自分が助かりたいとは思わない。


 俺がまともに相手にできるのは、霊魂だけだ。つぶしが利かないこと、夥しい。つか、霊魂しか操れないなんて、人生、詰んでますね……。


 ニコラが大きく右手を振り上げた。

 幅広ナイフの方か。出血多量死ってこと? お願いだから、あまり時間を掛けずに、楽に死なせてくれ。

 目を閉じた。


「うわっ!」

「ひっ」

奇妙な悲鳴が聞こえた。


 ジャックとニコラのいる方角から聞こえたきたのだが、さっきまで聞かされていた二人の声とも思えない。

 それほど奇怪な叫び声だった。

 思わず瞼を上げた。

 恐怖に歪んだ二つの顔があった。


「いったいどうしたんだ?」


 答えはなかった。

 金縛りにでもあったかのように、ニコラはナイフを持った右手を上げたまま、ジャックは細身のナイフを腰の高さに構えたまま、固まっている。


 二人は俺をじっと見ていた。

 違う。俺じゃない。

 俺の後ろだ。


 ふうっと、何かが揺らぐ音が聞こえた。

 その瞬間、まるで空気の抜けたように、二人の強盗はへなへなとその場に座り込んでしまった。


「おい」


 声を掛けた途端、二人揃って目を剥いた。口から泡が噴き出ている。

 二人の強盗は、気絶していた。


 とりあえず俺は、死なずに済んだようだ。切り裂かれる痛みも突き刺される苦しみも味わわなくて済む。

 安堵した瞬間、膝の力ががくりと抜けた。


「シグ!」


 後ろから声が聞こえた。

 紺色の布に包まれた腕が伸びてきて、倒れそうになった俺の身体を抱き留めた。


 シグ? シグだって?

 そんな風に呼ぶのは、ジョアンだけだ。

 けれどジョアンはここにいない。

 それにこれ……軍服だ。紺色の、ペシスゥスの軍服。







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