第10章 宇宙史記録抄
太陽族多種生命文明の成立
多種多様な生命が、
己の形を捨てることなく、
己の個性を武器として共存する文明。
それは、
同化でも、支配でも、
理念の押し付けでもなかった。
水に生きる者は水を讃え、
火に耐える者は熱を誇り、
空気を持たぬ者は真空を恐れず、
精神のみの存在は、沈黙の中で意思を交わした。
彼らは、
同じ姿ではなかった。
同じ価値観でもなかった。
ただ一つ、
「共に歩む」という選択だけを共有した。
太陽系は、
もはや単なる恒星系ではなかった。
そこには、
地球人の尽きぬバイタリティがあり、
異星人の洗練された技術があり、
精霊種の調和感覚があり、
極限環境生命の静かな誇りがあった。
それらすべてが、
太陽という一つの光のもとで結び直され、
防衛と創造を両立する文明圏を形成した。
銀河帝国が滅び、
銀河が理念疲労を起こした時代に
太陽系は、別の答えを提示した。
力を否定せず、
しかし力に溺れない。
防衛を築き、
その上で文化を咲かせる。
この在り方は、
やがて他銀河の観測者たちにも認識される。
彼らは報告書にこう記した。
「太陽系は、
もはや単一種族文明ではない。
あれは
多種生命が家族として機能している
初の恒星文明である」
そして、
正式名称が与えられた。
太陽族多種生命文明
(Solar Poly-Life Civilization)
それは、
宇宙を一色に塗り潰す文明ではない。
無数の色が、
互いを損なわず、
むしろ引き立て合う文明。
精神生命体は、
静かに注視を続けた。
他種族は、
距離を保ちながらも、
羨望と警戒を込めて見守った。
太陽族多種生命文明は、
宣言しない。
侵略しない。
ただ、
絶対防衛圏を越えさせないという
沈黙の意思だけを、
恒星の重力のように、
確かに放ち続けた。
そして宇宙は、
久しぶりにこう思った。
「多様性は、
混沌ではなく、
秩序になり得る」
これが、
後に「太陽の選択」と呼ばれる
文明史の始点である。




