第07章 太陽系移住局・第一窓口
水性生物移民・第一号
移住局の受付に、
その家族はいた。
透明に近い半流動の身体。
重なり合うように並ぶ十の個体。
正確には「十人」なのか、「一家族」なのか、
書類の項目がすでに意味を失っている。
「……で、要件は?」
行政府移住担当者が、
端末を操作しながら問いかける。
水性生物の代表らしき個体が、
ゆっくりと体表を揺らした。
「はい。
我々の住む惑星が、干上がり始めました」
担当者の指が止まる。
「宣言を聞きました。
移住していい、と」
声は穏やかだった。
切迫感はあるが、恐怖はない。
「条件は単純です。
水が必要で、凍らない場所。
それでいて、茹で上がらない場所」
……難易度が高い。
担当者は思わず、正直な答えを返してしまった。
「そんな場所……
地球しかないですよ」
一瞬の沈黙。
「他は?」
「……凍るからね」
太陽系の惑星配置を思い浮かべる。
氷、氷、氷。
もしくは灼熱。
担当者は続けた。
「地球なら、水は豊富です。
ただし」
言いにくそうに咳払い。
「塩水ですが。
それでも、いいですか?」
水性生物の体表に、微妙な揺らぎ。
「……しお?」
代表個体が、首をかしげるような動きをする。
「塩とは、何ですか?」
その瞬間、
担当者の脳内が真っ白になる。
(塩を……どう説明する?)
後ろを振り返り、小声で呟く。
「……無理だ。
異星人担当者、呼んでください」
異星人担当者は、
呼ばれて三秒で状況を把握した。
「あー……塩ね」
あまりにも軽い。
「H・C・L でできてる分子ですよ」
水性生物の代表が、ぴたりと動きを止める。
「……H、C、L」
内部で何かを計算しているらしい。
数秒後、
安心したように体表が安定した。
「なるほど。
それなら大丈夫です」
担当者が思わず身を乗り出す。
「ほんとに?」
「はい。
濾して、出しますから」
……出す?
地球人担当者の理解が追いつかない。
「……えっと、
食べ物は、どうします?」
恐る恐る尋ねると、
水性生物はきっぱりと言った。
「食べることはしません」
沈黙。
「……え?」
「我々は、
環境と物質の交換で生きます。
摂食という概念は、ありません」
担当者は椅子にもたれた。
(食事の配給がいらない……
いや、それより……)
「じゃあ……地球で?」
「はい。
海、もしくは大型水槽があれば十分です」
異星人担当者が、軽く頷く。
「問題ないですね。
地球側と調整しましょう」
その瞬間、
移住局の端末に小さく表示が出た。
太陽系移住申請:受理
種族:水性知性体
世帯数:1
人数:10(定義未確定)
行政府担当者は、画面を見つめながら、
ぽつりと呟いた。
「……これが、最初か」
異星人担当者が答える。
「ええ。
理念が、初めて現実になった瞬間ですね」
水性生物の家族は、
静かに揺れながら、こう言った。
「ここは、
住んでも、いい色の宇宙ですね」
誰も、すぐには返事ができなかった。




