第03章 太陽系防衛立案委員会・設立前夜
皇女の宣言から、わずか三日後。
太陽系の役割 すなわち防衛立案の全体構想をまとめた書類は、
厚さがもう「兵器」に近かった。
ページ数ではない。
責任の重さだ。
それを抱えて、私は月の会議室に立っていた。
「……人使い荒くない?」
思わず、口をついて出た。
皇女は、机の縁に腰掛けたまま、楽しそうに足を揺らす。
「なに言ってるの」
軽い。
あまりにも軽い。
「あんた、多次元の怪物と戦ったでしょ」
それを言われると弱い。
事実だからだ。
「太陽系の防御を振るのは、適任よ」
振る、という言葉の中に、
どれだけの責任と地獄が含まれているか、
この人は絶対わかって言っている。
私は書類を机に置いた。
「……これ、文明規模なんだけど」
「で?」
皇女は肩をすくめる。
「これからね、異星人が宣言に共感して、
続々と移住してくるわ」
その言葉に、室内の空気が一段、重くなる。
「種族も、文化も、倫理もバラバラ。
防衛だけじゃなくて、摩擦も考えなきゃならない」
「うん」
あっさり肯定された。
「だから、それも考えておいて」
即答だった。
私は天井を仰いだ。
月の人工照明が、やけに白い。
「……あのさ」
「なあに?」
「普通、こういうの、皇女が主導するんじゃない?」
その問いに、彼女は少しだけ真面目な顔になった。
そして、はっきりと言った。
「宇宙で最もホットなトレンドの発祥が、ここよ」
一拍。
「私はね、広告塔」
……出た。
「象徴が必要なの。
夢を見る存在。
語る存在。
信じさせる存在」
皇女は立ち上がり、こちらを見た。
「でも、回す人間は別」
視線が突き刺さる。
「実務は、あんたと」
一瞬、口角が上がる。
「奥様でできるでしょ」
逃げ道が、綺麗に塞がれた。
私は小さく息を吐いた。
「……家庭内で、話し合いが必要だな」
「頑張って」
にこやかに言うな。
皇女は背を向け、出口へ向かいながら、振り返った。
「さあ」
指を鳴らす。
「忙しくなるわよ!」
そして、最高に無責任な一言を添える。
「頑張って稼がなくちゃね」
扉が閉まる。
静寂。
私は書類の山を見下ろし、呟いた。
「……宇宙を守るって、
まず、胃をやられるんだな」
その瞬間、
太陽系防衛立案委員会
実質的な戦争と平和の設計室が、動き出した。




