第14章 命令系統探索編 銀河に残された「最古の受信点」
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
皇女ニアは、銀河帝国が誇った全観測網を再起動させた。
物理空間
亜空間
多層次元干渉層
思考確率層
だが、送信源は存在しない。
「発信は……ない?」
「いいえ、皇女殿下」
「受信だけがある」
彼らの艦隊は、
命令を待っていない
命令を要求していない
それでも、常に同一の判断結果を返す
これは、外部入力ではない。
「……内部に、原初命令核がある」
観測網が、一つの異常を捉えた。
銀河中心ではない
辺境でもない
どの勢力圏にも属さない
だが、そこだけ、時間が揺れていない。
「ここ……何も起きていないのに、変化が記録されていない」
そこは死んだ銀河核。
恒星形成が終わり、重力活動も収束し、
文明が生まれる前に沈黙した領域。
「……だから、誰も探さなかった」
近づくほど、奇妙な感覚が強くなる。
空間が滑らかすぎる
ノイズがない
偶然が発生しない
「ここでは、確率が許されていない」
「……これは、機械文明の施設じゃない」
「機械が、自分たちの上位存在として設定した場所」
つまり、命令を出す存在がいた
その存在は、物質でも、生命でもない
だが、機械が神として扱った
調査隊の報告。
エネルギーは微量だが安定
自己修復は続いている
通信回線は開いたまま
「……待っている」
「誰かが、命令を送るのを」
理由は単純。
権限がないと、認識すらできない、
銀河帝国ですら、ここを「空白」としか観測できなかった。
「彼らは、正しい命令が来ることを前提に設計されている」
「だから、完全に暴走しなかった」
命令中枢は、送信者の定義を、要求している
誰が命令するのか
何を根拠にするのか
「……私じゃない」
「帝国でもない」
「銀河連邦でもない」
ここで、皇女は気づく。
地球文明は、
権力を神に委ね
同時に神を疑い
命令と倫理を分離してきた
「命令を書く文化がある」
皇女は、地球出身の彼を思い出す。
「彼なら……」
「命令を、命令として書かずに書ける」
調査隊が、一つの古代記録を回収する。
『最初の命令は、銀河誕生直後に一度だけ送られた』
皇女は、命令中枢を見つめながら呟く。
「銀河は……まだ、誰かの返事を待っているのね」
皇女は、誰もいない制御層で立ち止まった。
命令中枢かつて銀河の守りを託された場所を、冷たい視線で見下ろす。
「……銀河の守りの機械に命令した、古の命令者よ」
声は低く、感情は抑えきれていなかった。
「お前、相当性格が頓珍漢だったんでしょうね」
一拍。
「緻密な管理者なら失格。いや、最低クラスよ」
吐き捨てるように言葉が続く。
「その曖昧な命令のせいで、この銀河は停滞した。
進むべき文明が止まり、消えなくていい命が消えた。」
視線を逸らし、皇女は短く息を吐く。
「……きっと、今までもあったのでしょうね。
同じ誤作動が。同じ掃除が」
沈黙。
「他の銀河は、もっと進んでいるのかもしれない」
その言葉には、羨望ではなく、確信に近い皮肉があった。
「全く……とんでもない遺産を残してくれたものね」
最後に、小さく。
「……はぁ」
それは呪詛であり、同時に
銀河の管理者を継ぐ覚悟の吐息でもあった。




