第07章:地球の異常性
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
静かな惑星に潜む、ありえない進化
最初は、確認作業だった。
探索船が集めた環境データ。
生態系。
DNA構造。
脳の神経配置。
「……異常は、ない」
そう結論づけるはずだった。
だが、
精神構造解析の項目で、数値が止まった。
ありえない。
地球人の脳は、
我々から見れば、未成熟だ。
処理速度も、容量も、
銀河標準から数世紀遅れている。
それなのに。
「多層思考痕跡……?」
解析AIが、再計算を要求する。
脳区画の一部に、
かけらのような異質なパターンが存在していた。
単なる高知能ではない。
論理でも、本能でもない。
多層次元を前提とした思考構造。
精神生命体への成長可能性を持つ構造だ。
「……割合は?」
「全人口比、約1%」
私は、言葉を失った。
1%。
帝国でも、
千億人に一人いれば奇跡とされる数値だ。
それが、
文明辺境の惑星で、
自然発生的に、しかも集団で存在している。
ありえない。
私は、解析を個体レベルまで落とした。
すると
ある二つのIDで、数値が跳ね上がった。
「夫婦……?」
一人は、牧場主。
特別な地位も、軍歴もない。
ただの、地球人の中年男性。
だが、
精神耐性、直感予測、意識安定性。
異常なほど高い。
そして。
もう一人。
「……妻」
私は、立ち上がっていた。
DNA照合結果が、
何度見ても変わらない。
銀河帝国王族、
母系血統との部分一致。
「私の……親戚?」
冗談ではない。
地球人のDNAに、
確かに、我々と同じ配列が混ざっている。
しかも、
偶然では説明できない保存率。
「どういうことだ……」
彼女の精神構造は、
すでに人間の枠を超えかけていた。
多層次元思考。
精神干渉への完全耐性。
精神生命体への自然遷移可能性。
もし、
正しい環境と刺激が与えられれば
「強固な精神生命体になる……」
私は、背筋が冷えた。
これは、進化ではない。
誰かが、何かを残した。
あるいは
逃げ込んだ。
過去、
食らうものたちから逃れた存在が、
この惑星に、
精神の種を隠した可能性。
地球は、
ただの未開惑星ではない。
隠れ家だ。
そして、
見つかれば、必ず狙われる。
私は、即座に命令を出した。
「接触は、慎重に。
監視は、最小限。
干渉は禁止」
もし、こちらの存在を悟らせれば、
彼らの精神は覚醒する。
覚醒は、希望にも、
破滅にもなる。
「地球の文明を、少しずつ引き上げる」
技術を押し付けてはならない。
恐怖を与えてもならない。
彼ら自身が、
自分たちで立てる文明へ。
そうでなければ、
再び、悲劇が繰り返される。
私は、拳を握りしめた。
二度と、
あの恒星のような光景は見ない。
二度と、
民を失わない。
二度と、
無力なまま逃げない。
「共存できる文明を作る」
防衛し、
育て、
守る。
この惑星を、
戦場にはさせない。
地球は、
異常だ。
だが同時に
銀河で唯一、未来を変えられる可能性を持つ星。
私は、皇女として、
指揮官として、
そして、生き残った者として。
この星を、守ると誓った。
たとえ、
その鍵が、
一組の夫婦だとしても。




