第06章:観測
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
地球が違和感を感じ始める
最初の異常は、
「異常」として扱われなかった。
人工衛星のテレメトリログに、
わずかなノイズが混じった。
姿勢制御は正常。
電力系統も問題なし。
だが、観測データだけが揺れている。
「また宇宙線だろ」
管制室では、そう処理された。
だが、その宇宙線は、
一定の方向から、
一定の周期で、
しかも強度が揃いすぎていた。
次に声を上げたのは、
天文学者だった。
電波望遠鏡が捉えた信号。
パルサーでも、クエーサーでもない。
「……静かすぎる」
通常、宇宙は雑音に満ちている。
星間ガス、磁場、粒子嵐。
だが、ある領域だけが、
意図的に掃き清められたように静寂だった。
「誰かが、掃除している?」
冗談めかした一言が、
その場の空気を凍らせた。
観測データを重ねる。
赤外。
可視光。
重力波。
一致する。
何も見えないのに、
そこに何かがある。
決定打は、
アマチュア天文家の投稿だった。
「彗星の軌道がおかしい」
最初は、誰も相手にしなかった。
だが、添付されたデータが、
プロの目を引いた。
彗星は、
太陽系外から侵入し、
木星圏で減速し、
ありえないほど滑らかな軌道補正をしていた。
「自然じゃない」
軌道は、
捕獲されたように見えた。
「まるで、港に入る船だ」
その一文が、
専門家たちを黙らせた。
データは、瞬く間に集約される。
・複数の衛星が同じ方向でノイズ
・電波望遠鏡が示す人工的静寂領域
・彗星の異常軌道
・微弱だが、周期的な重力揺らぎ
偶然では、説明できない。
「人工物だ」
誰かが、はっきり言った。
会議室に、沈黙が落ちる。
有史以来、
これほど否定できない形で揃ったUFO証拠はなかった。
政府は、慎重だった。
「未確認」
「追加検証中」
「自然現象の可能性」
だが、民は違った。
SNSで、
フォーラムで、
動画配信で。
「見られてるんじゃないか?」
「もう来てるだろ」
「監視してるのは、どっちだ」
夜空を見上げる人が、増えた。
意味もなく、空を見る。
いつもと同じ星。
同じ月。
なのに。
「……何かが違う」
根拠はない。
証明もできない。
だが、
世界のあちこちで、同じ違和感が共有され始めていた。
天文学者は、眠れなくなり。
衛星管制官は、ログを何度も見返し。
アマチュア天文家は、望遠鏡から目を離さなくなった。
そして、誰もが、
まだ言葉にしない問いを抱えていた。
もし、
本当に誰かがいるとしたら。
その視線は、
友好か。
無関心か。
それとも。
夜空は、何も答えない。
だが、
沈黙が、これほど重い夜はなかった。




