第04章:文明の再点火
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
100億人社会の再設計
構造体は、完璧だった。
あらゆる技術。
あらゆる知識。
あらゆる文明の核。
だが住む場所ではなかった。
通路は効率のために最短化され、
空間は生産と演算を優先して設計されている。
子どもが走る場所はなく、
老いた者が空を眺める窓もない。
「……ここは、避難所だ」
ニアは呟いた。
生き延びるための場所。
立ち上がるための場所。
だが、暮らすための場所ではない。
100億の民は、静かだった。
不満はない。
要求もない。
それが、かえって痛かった。
「居住可能な恒星系を探索する」
命令は、即座に実行された。
探索船、100隻。
無人ではない。
必ず、民が乗った。
彼らは、未来を探す者たちだった。
数週間後、報告が集まり始める。
「不適合」
「放射線過多」
「重力不安定」
「生態系未成熟」
希望は、何度も砕かれた。
そして
第73探索船から、異常な報告が届いた。
《恒星系座標、確定》
《第3惑星、生態系安定》
《水・大気・磁場、問題なし》
「……続けて」
ニアの声が、わずかに低くなる。
《生物構造、地球型》
《炭素基盤》
《DNA……一致率、ほぼ100%》
沈黙が、司令空間を包んだ。
「……同じ?」
《はい。
我々銀河帝国系生命と、完全互換》
信じがたい。
偶然では、説明できない。
文明度評価が続く。
《技術水準:帝国基準より約10世紀遅れ》
《恒星間航行:未到達》
《核融合:実験段階》
《AI:初期段階》
侵略は容易すぎた。
ワープ一回。
防衛網は存在しないに等しい。
この惑星は、気づく間もなく、飲み込める。
だが。
「……やらない」
ニアは、即答した。
司令官たちは、何も言わなかった。
彼女の判断を、疑う者はいない。
「これ以上、奪うことはできない」
恒星を焼かれ、
母を失い、
帝国を失った。
その痛みが、まだ消えていない。
侵略などしたら、
自分たちが壊れてしまう。
100億の民は、兵士ではない。
彼らは、家を失った民だ。
「欲しいのは、支配じゃない」
ニアは続けた。
「癒しだ。
眠れる夜と、子どもの声と、
明日が来ると信じられる場所」
冷徹な指揮官として、
彼女は計算する。
この恒星系に直接住むのは、リスクが高い。
原住文明との接触は、不可逆の影響を与える。
ならば
「共存圏を、別に作る」
惑星の衛星。
ラグランジュポイント。
恒星系外縁。
技術はある。
時間も、ある。
「この恒星系を、傷つけずに住居を得る」
それが、皇女ニアの決断だった。
命令が、静かに流れる。
《軌道居住構造体、設計開始》
《生態模倣環境、展開準備》
《恒星エネルギー、安全抽出》
《原住文明、不可侵指定》
100億の民に、初めて希望の揺らぎが走る。
家が、できる。
帰れる場所が、できる。
まだ、土には触れられない。
だが、空は同じ色だ。
ニアは、ひとり、星を見ていた。
「母上……
私は、奪わない道を選びました」
その選択が、
やがて地球と交わる運命になることを、
この時の彼女は、まだ知らない。




