表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽系外からの訪問者  作者: HAL
銀河帝国滅亡
40/208

第03章:構造体の起動

この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。


 母が遺した鍵


 銀河帝国は、消えた。


 それは、宣告でも噂でもなかった。

 通信が、存在しないという事実。

 応答が、永遠に返らないという現実。


 帝都。外縁防衛圏。辺境統治艦隊。

 すべてが、沈黙していた。


「……確認終了」


 ニアは言った。

 声に、揺らぎはなかった。


「銀河帝国は、ここには来ない。

 だが我々は、終わらない」


 100億の民は、その言葉を聞いた。


 悲鳴も、泣き声もなかった。

 すでに、恒星が焼ける光の中で、

 泣くという行為は、置いてきたのだ。


 民は、無能ではない。


 彼らは、帝国を支えた。

 科学者、技師、農業管理者、医療統括官、航宙士、物流官。

 文明とは、王族ではなく、民の手で動いていた。


「やるべき事を、やる」


 それだけが、艦隊に流れた共通認識だった。


 構造体は、艦隊の中心からわずかに離れた場所にあった。


 直径、約12キロ。

 外殻は滑らかで、劣化の痕跡がない。

 まるで、時間から切り離されているかのようだった。


 《接近許可を要請します》


「私が行く」


 皇女専用艇が、構造体へ向かう。

 護衛は、つけない。

 これは母と娘の問題だった。


 構造体の表面に、光が走る。


 ニアの接近と同時に、

 未知の認証信号が発生した。


 《生体波形一致》

 《遺伝キー、確認》

 《皇族直系、第3位》

 《起動条件、満たされました》


「……母上」


 構造体が、開いた。


 内部は、広大だった。

 工廠、居住区、演算核、育成区画。

 ひとつの文明を、丸ごと再起動できる規模。


 中央ホールに、記録装置があった。


 映像が、空間に投影される。


 そこにいたのは、母だった。


「ニア。

 これを見ているなら、私はもう、この宇宙にはいないのでしょう」


 声は、優しかった。

 それが、胸に刺さる。


「帝国は、脆い。

 巨大であるほど、敵は一点を狙う」


「だから私は、帝国とは別に、

 民だけが生き延びる場所を用意した」


 映像の母は、微笑んでいた。


「鍵は、あなた自身。

 怒りを持ちなさい。

 だが、憎しみに支配されてはいけない」


「民は、あなたを見ている。

 あなたが立てば、民は歩く」


 映像は、そこで終わった。


 ニアは、目を閉じた。


 そして、開く。


「全艦隊へ」


 声が、リングのように広がる。


「ここが、我々の根だ。

 帝国は消えた。

 だが、文明は残る」


 彼女は、構造体の中枢に手を置いた。


「再起を開始する」


 《全システム、起動》

 《人口収容準備、開始》

 《生産ライン、再構築》

 《教育・医療・食料循環、初期化》


 光が、構造体全体を満たす。


 100億の民が、初めて同じ方向を見る。


 復讐ではない。

 逃亡でもない。


 再起だ。


 悲しみは、心にしまう。

 怒りは、刃として鍛える。


 皇女ニア・エド・マク・ルードは、立っていた。


 母が遺した鍵として。

 そして、100億の民の先頭として。


 銀河は、まだ広い。

 敵は、どこかにいる。


 だが

 今度は、滅びない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ