第03章 木星で何をしているのか?
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
「宇宙人、木星で何をしているのか?」
それが世界を支配していた疑問だった。
琴座方向から飛来した謎の球体が、
木星、次いでガニメデへと移行してから一ヶ月。
地球には一度も近づく気配がない。
それが人類にとって、逆に恐怖だった。
SNSでは連日、未確認飛行物体(UFO)論争が燃え続けていた。
「絶対人工物だろ」
「なんで地球に来ないんだ?」
「木星は美味しいのか?」
「そりゃ資源の塊だろ。UFOなら取り放題」
世界の空気は半分冗談、半分本気でざわついていた。
だが、NASA内部では笑い事ではなかった。
NASAはすでに政府へ内部報告書を提出していた。
《木星圏にいる物体は、自然天体ではなく、
極めて高い確率で人工物=探査機である》
球体の形状、回転周期、軌道変更、
どれを取っても自然の偶然では説明がつかない。
しかし、ここで最大の謎が浮上する。
アメリカ政府は会議室で連日議論していた。
「知的生命体が地球に気づかないはずがない。
我々は……これだけ騒がしいのに」科学者が淡々と答える。
「地球は電波を撒き散らし、夜でも大陸が光っています。
太陽系の中でも異常に目立つ惑星です。」
なのに、木星ばかりを探査している。理由がわからない。
閣議、会議、専門家会合
結論の出ない議論に、無駄に時間だけが過ぎていった。
政府の焦りとは裏腹に、彗星(と呼ばれていた物体)
は淡々とガニメデの周囲を周り続ける。
1ヶ月間、何の変化もなく、それが逆に不気味だった。
一部の国では強硬派が叫んだ。
「必要なら核弾道ミサイルで迎撃すべきだ」
だが、専門家も一般人も失笑する。
「あれだけ軌道を自在に変えられる物体を、
どうやってミサイルで当てるつもりだ?」
それでも政治家は威勢のいい発言をし続け、
国内向けのパフォーマンスに終止していた。
……とはいえ、生活に直接支障があるわけではない。
インフラも止まらない、食料も普通、戦争も起きていない。
地球に危険が迫っているのかどうかすら曖昧で、
庶民はいつもどおりの日常を生きていた。
ただの珍しい宇宙ニュース。
地球からは何もできないし、どうしようもない。
木星に探査機を送れば一年以上かかる。
その間に、あの物体がどこに行くか分からない。
国連でも連日「対策会議」が開かれているが、
その実態はメディアへのパフォーマンスにすぎなかった。
各国の代表が、決して核心に触れない、意味の無い議論を繰り返す。
世界は騒ぎながらも、結局のところ何もできない。
ただ、見ているしかなかった。




