第35章 後遺症
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
戦いのあとは、精神生命体によって、
多次元層から普通の時空へと戻された。
だが戻ったと言っても、意識と肉体がぴたりとは合わない。
世界の音が一拍遅れ、光は少しだけ滲んで見える。
俺の身体はそこにあるのに、触れた感覚は別の層を通って返ってくる。
「慣れるまで三日はかかる」精神生命体の声が直接、意識に響いた。
「だんだん慣れてくれば、人間に見えるさ。
ただし、油断するとすぐズレる。
戻らんぞ? 大人しくこちら側に来てもよかったものを」
「……これって、幽体離脱ですか?」
「人間視点ではそうじゃろうな。
他の人間には、お前は死んでいるようにしか見えまい」
「は?」
「安心せい。かみさんとの接触もできる。子孫も残せるぞ」
「……行き届いた配慮、ありがとうというか、いらんお世話だ!」
「未熟じゃのう。よう試験に通ったわ、ほんに」
『次の試験がいつ来るかはわからんが、必ず来る。
お前の子孫を鍛えておけ』
「お前が来るのを楽しみにしておるわ 」笑
........ 笑いながら消えていった。
ジジイのような口調で、宇宙規模の話を平然とする。
だがその存在は、もうこの次元にはいない。
多層を越え、さらに高い層へ旅立っていったのが、感覚でわかる。
気づけば、俺は家のベッドに寝ていた。
呼吸も心音も感じるが、
それは肉体がしているだけで、俺は別の層に立っている。
「どうしようかな…」
そう思った瞬間、家族の気配が一気に近づいた。
(怒っていらっしゃる)
三人が同時に瞑想状態へ入り、
奥さんが子どもたちの意識を引き連れて、
こちら側へ踏み込んできた。
「あなた。置いていかないでって言ったわよね!」
奥さんが怒っている。
多層に響く怒りはマジで怖い。
「パパ、ここどこ? えっ、あれ、僕?」
「静かにしなさい。
ママが話してるでしょ。
とばっちりが来るわよ。
死んでないのはわかったからいいわ。
あとは夫婦の問題でしょ。
私たちは部屋に戻る」
「そうね。じゃあね。
パパみたいにならないように、
ちゃんと理性を持った大人になりなさい。
しっかりお勉強してね。」
「えーー。」「ほら、きた、とばっちりが」
子供達は部屋へ戻った。
「まだ怒ってる?」
「怒る気にもならないわ。
それより、この状態いつ戻るのよ」
「三日あれば戻るって言われてる。
意識を油断するとズレるから訓練する」
「あなた、人間やめる?」
「やめません。君を抱きたいから」
「……あきれた。
でも、いいわね。
三日後にちゃんと抱いてよ?」
三日後。
しっかり、抱き合った。
(子孫とか言ってたな。
まさかな……いや、考えるのやめよう)




