第32章 立つ
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
この災害は、
牧場の主人である彼の意識を根本から変える出来事だった。
家畜と草原と季節の移ろい。
それが自分の世界のすべてで、その範囲に責任を果たしていれば、
それでいいと思っていた。
中年特有の落ち着き、満足とも、諦めともつかない感覚。
だが今回は違った。
妻の問題。
家族の問題。
そして、地球全体を揺るがしたあの災害。
もう、牧場主の範囲では終わらない。
守れない。
このままでは。「俺が動かなければ、誰も救えない。」
初めて、胸の奥から湧き上がった確信だった。
地球も、家族も、生活も、全部が一本の線でつながっている。
逃げようとしても、見て見ぬふりをしても、
もう目の前に現れてしまった。
あの災害の荒れ狂うその時刻、俺の意識に入り込んだ何かが、
俺を喰らおうとした。
こいつが、彼女の恐れていた、悪霊か?
俺は、無意識に、彼女と共にしていた、瞑想に入る。
心を無にし、自己確立を強固に自分を見つめる。
奴と一瞬だけの思考のやり取りだったが、十分だ。
隠そうともしない、意識が流れ込んできた。
奴は、俺が見えなくなると、消えた。
教えてもらった防御が役に立った。
正直、怖い、強力な思念があることを肌で感じた。
鳥肌が立っていた。
他の人には、俺が恐怖で青ざめているとしかみえなかったろう。
(俺に、何ができる?)
その問いかけに、答えは声となって返ってきた。
(できる、できないを聞くな。行動しなければ、
すべてがお前の手からこぼれ落ちる。)
(今まで、お前はセーブして生きてきた。
やりすぎない。
目立たない。
ほどほどにしておく。
……それで家族を守れると思っていた。)
声は続く。
(だが宇宙は、お前を求めている。
お前しか助けられないんだ。
感じているだろう。)
彼は無意識に拳を握った。
(もう隠すのはやめろ。
災害が一度消えたからといって終わったわけではない。
次も奴らは消しに来る。)
(そのとき、お前は妻を守れるのか?
家族を守れるのか?
……覚悟を決めろ。)
胸が、熱くなる。
恐怖ではない。
責任でもない。
覚悟が、形になり始めていた。




