第25章 大統領と側近たちの密談
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
大統領府・地下会議室。
地上の混乱を避けるため、外部通信は完全遮断。
壁面は新たに異星製素材で覆われ、盗聴は不可能とされた。
円卓に集まったのは、大統領、国家安全保障顧問、科学局長、
軍最高司令官、そして数名の側近たち。
しかし、全員の顔は沈んでいた。
誰も口を開けず、時計の秒針だけが静かに響く。
最初に沈黙を破ったのは、安全保障顧問だった。
安保顧問
「……我々は完全に主導権を失いました。
この状況は、国際政治でも外交でもなく……
統治の移行とみるべきです。」
軍最高司令官は拳を握りしめた。
軍司令官
「宇宙船一万隻、シェルター一億基。
どれも地球軍が数百年かけても到達できない規模だ。
もし彼らが敵に回れば、我々は三分と持たない。」
大統領はゆっくりと息を吸った。
大統領
「皇女の貸し……あれは恩ではなく、拘束だ。
太陽バーストで我々を救う代わりに、
太陽系の再編に地球が抵抗できない状況を作る。」
科学局長がため息をつく。
科学局長
「……避難シェルターの量産速度は常識外れです。
地球文明がどう足掻こうと、追いつけません。
つまり、この救済作戦自体が支配の証明になってしまった。」
軍司令官が声を潜める。
軍司令官
「大統領……木星以遠の開拓権を本当に渡すおつもりですか?
あそこは最後の宇宙フロンティアだ。」
大統領は机を軽く叩いた。
大統領
「渡すも何も……我々には拒否権がない。
地球を救う技術も、避難船も、軍事力も何一つ持っていない。」
側近たちは沈黙した。
若い側近が恐る恐る口を開いた。
若手側近
「……大統領。皇女殿下は悪意があって動いているのでしょうか?
本当に我々を救うつもりなら、協力関係と考えても……」
軍司令官が鋭く遮った。
軍司令官
「それは甘い。助けるついでに管理する方がはるかに効率的だ。
彼らは感情ではなく、文明単位の合理で動く。
対等な協力など存在しない。」
長い沈黙のあと、大統領は椅子から立ち上がった。
大統領
「……我々は認めざるを得ない。
地球は文明として未成熟だ。
そして今、初めて上位文明の影響下に置かれた。」
側近たちはうつむき、誰も反論しなかった。
大統領は続ける。
大統領
「ならば我々にできるのは一つ。
地球人をできる限り多く生かす。
そのために、皇女の要求を受け入れ、
背負わされた貸しを最小限に抑える。
それが地球の生き残る道だ。」
安保顧問が静かに言った。
安保顧問
「……大統領。
今後、地球は対等な文明ではなく、
保護対象の存在として扱われるでしょう。
木星以遠の領土も、政治権限も……
いずれ地球には選ぶ余地がなくなるかもしれません。」
大統領は窓のない会議室の天井を見上げた。
大統領
「わかっている。
だがいまの地球に抗う力はない。」
その言葉は、地球文明の現実的な位置を静かに突きつけた。




