第82話 王様選手権
クランは相変わらず、我が道を往く。
銀河暦XXXX年。
記念すべき
第1回・銀河王様選手権 開幕。
開会式
司会AI
「本選手権は
・戦闘力
・知性
・カリスマ
・民衆支持
・象徴力
を総合評価し...」
クラン
「要するに目立ったもん勝ちよ」
俺
「公式の場で言うな」
想定されていた優勝候補
・元暴君(筋肉モリモリ)
・革命英雄(演説が神)
・貴族エース(血筋ゴリ押し)
・戦争屋(武勲マシマシ)
観客
「うおおおお!!」
「誰が勝つ!?」
マーズ(小声)
「……全部ダメそうね」
そして、問題のエントリー番号【77】
司会AI
「続いて、エントリー77番」
画面に映る。
腰が曲がった、杖をついた、作業着姿の名もなき農夫。
会場
「…………?」
俺
「……誰?」
クラン
「知らないわ」
マーズ
「登録情報……辺境限界銀河・居住者?」
俺
「あの過疎銀河!?」
第一審査:カリスマ演説
元英雄
「我こそは民を導き」
大喝采。
農夫
(マイクを両手で持ち)
「えー……王様になったら……」
会場、失笑。
農夫
「……畑の水路、直したいです」
シーン。
農夫
「若いもんが帰ってこれる場所を……残したいだけで……」
静まり返る会場。
誰かが呟く。
「……あれ?」
第二審査:象徴適性
AI評価
「象徴王に必要な要素:争わない存在感」
戦争屋:威圧100
→ 不合格
貴族:尊大100
→ 不合格
農夫:
・怒らない
・命令しない
・威張らない
AI
「……適性値、異常」
マーズ
「嘘でしょ」
最終審査:民衆投票
投票ログ、急変。
都市銀河:
「なんかこの人、安心する」
辺境銀河:
「俺たちの代表だ」
若者層:
「王様っぽくないのがいい」
老人層:
「昔の王は、ああだった」
結果発表
司会AI(硬直)
「……優勝者」
ドラムロール........。
間。
「エントリー77番
農夫」
大歓声……ではない。
ざわ……ざわ……
俺
「……マジで?」
クラン
(目を輝かせて)
「最高じゃない」
優勝者コメント
農夫
「……王様って偉い人だと思ってました」
会場、息を呑む。
農夫
「でも……皆さんが象徴でいいって言うなら……」
農夫
「……畑、守ります」
沈黙のあと
拍手。
ひとり、またひとり。
やがて、総立ち。
その後
元暴君
「……殴る理由がねえ」
革命英雄
「民が選んだなら、仕方ない」
貴族
「……象徴、恐ろしい」
クラン、満面の笑み
クラン
「ね?」
俺
「……やばい制度作ったな」
マーズ
「ええ。
王様=強者という概念、死んだわ」
クラン
「王様はね」
クラン
「一番王様にならなくていい人がなるのが正解なの」
俺
「……深いこと言うな」
エピローグ
初代象徴王の宮殿。
農夫
「……広すぎて落ち着かん」
庭の片隅に畑を作り始める。
警備兵
「王様! そこは」
農夫
「雑草、抜いとくかの」
警備兵
「……はい」
こうして銀河は知った。
王様選手権は、欲のない者が勝つ地獄 だと。
後日談
奇跡は、静かに起きた
辺境限界銀河。
かつて「数百年後には消える」と言われた場所。
そこに
人が、戻り始めた。
理由は単純だった。
「あの王様がいるなら」
それだけ。
都会で疲れた若者が来た。
競争に疲れた家族が来た。
子どもを自然の中で育てたい親が来た。
SNSには、
畑で土にまみれる王様の映像。
宮殿の裏で、鍬を振るう姿。
「偉そうにしない王様」
「命令しない王様」
「一緒に汗をかく王様」
それは、どんな政策よりも強かった。
もちろん、現実は甘くなかった。
電波は弱い。
病院は遠い。
水道は自分たちで直す。
冬は厳しい。
理想だけで来た者は、帰った。
移住希望、100倍。
残ったのは、ほんの一握り。
だが
残った者は、文句を言わなかった。
人口は、ゆっくりと増えた。
百人。
千人。
そして
一万人。
誰も信じなかった数字。
王様は、何も変えなかった。
法律も作らない。
演説もしない。
革命もしない。
ただ、
・畑を耕し
・子どもの名前を覚え
・困っている人の話を聞いた
それだけ。
ある日、記録係が言った。
「これは……奇跡です」
王様は首を振った。
「奇跡じゃない」
「……残りたい人が、残っただけじゃ」
遠く離れた場所で。
俺
「……すげえな」
クラン
「でしょ?」
マーズ
「制度も、権力も、介入もない」
マーズ
「なのに、一番難しい
共同体の再生 をやってのけた」
俺
「王様選手権……
とんでもない爆弾制度だったな」
クラン
「うふふ。
一番王様に向いてない人が、
一番王様だったのよ」
銀河史には、こう記された。
辺境限界銀河再生の要因:
特殊技術なし
軍事介入なし
経済支援ほぼなし
王様の人柄のみ
研究者は頭を抱えた。
「……再現性がない」
だが、人々は知っている。
奇跡は、設計できない。
ただ、信じたくなる背中があっただけだと。
すごいのは王様だ、行動したからこそ波紋が銀河へ伝わった。
王様は、正解を知っていたわけじゃない。
未来を見通していたわけでもない。
ましてや、銀河を救おうなんて思っていなかった。
ただ、逃げなかった
誤魔化さなかった
誰かの人生を駒にしなかった
そして何より
自分の立場を使って、実際に動いた。
多くの王は「命じる」。
多くの指導者は「語る」。
多くの制度は「期待する」。
でもこの王様は違った。
土を触った
名前を覚えた
失敗を笑わなかった
それは小さな行動だったけど、銀河規模では、異常値だった。
だから波紋が広がった。
「ここなら、嘘をつかなくていいかもしれない」
「ここなら、弱っても見捨てられないかもしれない」
そう思わせた瞬間、人は勝手に動き出す。
誰かに命令されたわけじゃない。
助成金に釣られたわけでもない。
信じたいと思ったから、来た。
歴史はよく間違える。
「制度が成功した」
「政策が当たった」
「時流に乗った」
でも本当は
一人が動いたから、世界が動いた
それだけの話。
王様自身は、たぶん言うだろうね。
「すごくないよ。
動かんと、気持ち悪かっただけじゃ」
でもそれをやれる人間が、どれだけ少ないか。
だからこれは、奇跡じゃない、行動の物語。
そして一番美しいのは
その王様が、
自分が歴史を動かしたと、
最後まで気づかないことだ。
一人が動いたから、世界が動いた




