第01章 田舎の天文家
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
ジェームス・カーター、45歳。
両親は、街で市長をしている、ここを俺が受け継いだ。
年取ってからの牧場作業は体に堪えるから。
オーストラリアの内陸部で小さな牧場を営む、田舎の天文家だ。
日中は牛と羊の世話、夜は望遠鏡、そんな生活を30年以上続けている。
妻のリサは30歳、年の差は15、彼女は、かつての友人の娘だった。
友人夫婦は10年前、交通事故で他界し、
身寄りのなかったリサをジェームスが引き取った。
そのまま、自然な流れで結婚したという経緯がある。
彼女の両親は、移民で、国は、日本だったはず、
うちの牧場で働き出してから、二年後、小さな牧場を買取り、
となりに引っ越した。
彼ら家族は、よく家へ招いてくれた、夕飯を食べながら、
夢を語った、あいつも、宇宙が好きで、星談義に花が咲いた。
冗談のように「娘をもらってくれよ」と言っていた友人の声が、
今でもときどき耳に蘇る。
二人の子ども、7歳のカレンと5歳のジョン、
牧場に響く子どもたちの笑い声だけが、
広大な土地で暮らす家族の証だ。
趣味は天体観測、子どもの頃から憧れた天文学者にはなれなかったが、
大学では物理と天文学を専攻した。
その知識は今でも彼の夜を彩っている。
田舎の夜は暗い、街灯もない、だからこそ、銀河が空一面に広がる。
今夜も快晴、南十字星が冴え冴えと瞬いていた。
いつもの様に、10センチ口径の屈折望遠鏡を車に積み、
牧場から車で10分ほどの小高い丘へ向かった。
最新型の自動追尾機能つきで、写真撮影も補助望遠鏡もある。
20Kgを超える重量は、もはや手動で動かす気になれない。
極軸を合わせ、座標を入力し、スイッチを入れる。
静かに駆動音を立てながら、望遠鏡は夜空へと角度を変えた。
いつも通りの観測。
二時間ほどで百枚以上の写真を撮り終え、帰宅したジェームスは、
いつものようにパソコンを立ち上げる。
メモ帳には撮影した座標と写真番号、デジタルカメラのデータ
をPCに移し、前日までの写真と重ね合わせていく。
「……ん?」三十五枚目で指が止まった。
星の位置が、微妙にずれている。最初は目の錯覚だと思った。
だが三日前の写真でも、同じ場所にうっすらとした影が写り込んでいた。
血の気が引く「……彗星だ」、
移動量、日付、露光条件 すべて一致している。
彼はすぐにPCの軌道計算ソフトに値を入力した。
簡易計算でも、これは明らかに太陽系外からの軌道だとわかる。
震える手で天文台へFAXを送る。
座標、撮影データ、軌道推定。
気付けば深夜零時を回っていた。
初めての彗星発見だ、間違いはない、しかし、不安と期待が半々。
「またこんな時間まで……」リサが呆れ顔で立っていた。
ジェームスは照れくさく笑い、軽くキスをしてベッドへ潜り込む。




