第74話 仕掛け
転移光が消え、格納庫に静寂が戻る。
カブト
「追跡フェーズ、裏で進行中です。
表面上は撤退。中身は種まき完了ですね」
俺
「王様は、兵が死ぬのは慣れてる。
だが、生きて帰った兵が疑問を持つのは想定外だ」
ルミナス
「剣で勝つ世界の王ほど、
言葉と事実に弱いものですわ」
チャッピ
「クランの次元潜伏、安定。
敵救援艦、三隻。
通信……来ます」
モニターに、荒れたブリッジが映る。
転移で戻された隊長が、膝をついたまま報告している。
隊長
「……敵は、我々を殺さなかった」
貴族将校
「なぜだ」
隊長
「殺す価値がないと言われた」
一瞬の沈黙。
その空気の裂け目を、俺は想像する。
俺
「ほらな。
剣じゃ切れない所に、刃が入った」
殿下・大佐
「艦隊戦、不可避ですね。
ですが……相手は怒りでは動きません」
俺
「王様は、怒る。
貴族は、焦る。
兵は、迷う」
クラン(通信・微笑混じり)
「いいねぇ……
上、割れ始めてるよ。
命令系統が、二重になった」
俺
「それでいい」
俺は座席に深く腰を沈める。
俺
「次は艦隊戦だ。
だが、撃ち合いじゃない」
ドラゴンの連中が、顔を上げる。
俺
「王の玉座を、戦場に引きずり出す」
カブト
「了解。
裸の王様用スポットライト、準備します」
クラン
「 いい事考えた。
私、当分此処で、アルバイトする。
王様の側室になって、持ち上げて、叩き潰す。
」
俺
「 .... 側室はダメ。 有能な秘書か、護衛でね。」
クラン
「あら。 焼き餅かしら、嬉しいわ。
此処は お任せあれ。
艦隊戦の前に、骨無しにしますわ。」
俺
「骨抜きな!。」
俺
「任せる。お手並み拝見だ。」
クラン
「了解。
秘書兼護衛で潜り込むわ。
王様ってのはね、自分より強い剣より、賢い頭を恐れるの」
俺
「やりすぎるなよ。
死なせる必要はない。
壊すのは幻想だけだ」
クラン
「心得てる。
剣は抜かせない。
自分で折らせる」
通信が一瞬、ノイズに揺れる。
次元潜航が、完全に分離した合図だ。
王都・中枢星系 数日後
王の謁見室。
金と装飾で塗り固められた、重たい空気。
クラン(内心)
(兵は強い。
だが、この宮殿は弱さで出来てる)
貴族A
「彼女は、戦場から生還した兵を無力化した策士だ。
秘書兼、近衛補佐として推挙する」
王
「ほう……
小柄だが、目がいい。
名は?」
クラン
「クラン・ノクティス。
剣は振るいません。
勝てる戦を用意するだけです」
王は、笑った。
理解したつもりの笑いだ。
王
「よい。
余の艦隊は無敵だ。
飾りとして、置いてやろう」
クラン(内心)
(出た。
裸の王様ワード、初日でゲット)
数週間後
艦隊補給計画、クランが整理
無意味な突撃命令、数字で否定
勝利報告は王の功績、失敗は将軍の責任に丁寧に分解
王
「余が何もせずとも、戦が整うな」
クラン
「陛下の威光があるからですわ」
王
「ははは!」
側近たちは気づき始める。
命令は王から出ているが、戦争を設計しているのは誰かを。
裏で
クラン → 俺(暗号通信)
「順調。
王は自分が天才だと信じ始めてる。
艦隊司令部、二派に分裂。
王の勘派と現実派」
俺
「よし。
艦隊戦の前に、勝手に転ぶな」
クラン
「ええ。
転ぶのは、開戦号令の瞬間」
そして、予兆
王
「次の敵は、例の連邦の狗どもか?」
クラン
「はい。
ですが
彼らは、撃ち合いを望んでいません」
王
「何?」
クラン
「陛下が、どんな命令を出すかを見たいだけ」
王の指が、王座を叩く。
王
「余を、試すと?」
クラン
「恐れ多い。
ですが……
試されていると感じること自体が、
敵の狙いかと」
王
「……」
沈黙。
王の背中に、初めて不安が張り付く。
クラン(内心)
(ほら。
剣じゃない。
疑念が、一番よく切れる)




