第16章 地球企業連合体の暗躍
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
彼らは、地球企業連合体は、その力を隠そうとしなくなった。
独占禁止法、安全保障、国家主権各国政府が掲げるあらゆる常識は、
彼らの前では意味を成さない。
国家は彼らに「頭脳の開示」を要求したが、
地球企業連合体は政治力と莫大な資金力を背景に、すべてを退けた。
代わりに、彼らは各国に自らの人材を送り込み、
重要ポストを静かに押さえていく。
議案を提出し、ロビー活動を行い、承認を得る。
その内容は、誰も予想しなかったものだった。
「地球外のリスクに対応する新しい国際枠組み地球連邦への批准」
そう、彼らは地球企業連合体という名前を捨て、
「国を超えた新たな連邦」
という地位と法的権限を自ら作り上げたのだ。
地球連邦は瞬く間に世界の中枢機能を掌握していく。
既存の国家は弱体化し、国連は形骸化。
やがて地球連邦は世界の富の六割を吸収し、
ネット上では「連邦に参加するメリット」
を華やかに宣伝し始めた。
本拠地は火星。
そこでは開発が指数関数的に進み、
仕事という概念そのものが塗り替えられていった。
宇宙船(車)製造、コロニー建設、火星農業の確立。
「新たなフロンティアへ挑戦しよう」
そのスローガンのもと、火星は地球よりも豊かな未来を提示した。
給与は地球の二倍。
衣食住は保障。
三年勤めれば住居が与えられる。
若者たちは争うように火星行きの輸送船に乗り込んだ。
半年後、若者の九割が火星で暮らすようになり、
地球は過疎の惑星のような様相を見せ始めた。
火星での勤務は一日六時間。
さらに二時間は学習に割り当てられる。
学習といっても、従来の学校教育とは比べものにならない。
それは連邦、正確には、彼らが持ち込んだ技術によって
脳内区画が再編され、知識同士の連結速度が飛躍的に上がる
という、まったく新しい教育だった。
結果、平均IQは20%上昇し、火星にはニュータイプと
呼ぶべき地球人類の新世代が誕生しつつあった。




