第15章 国連本部
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
国連本部の玄関ホールには、異様な緊張が漂っていた。
大統領ハイゼル・J・マイルスエナは、
護衛に囲まれたまま、ゆっくりと歩み寄ってくる女を迎えた。
「ようこそ、地球へ。私は合衆国大統領、ハイゼル・J・マイルスエナ。
本日は地球の安全を確保していただき、感謝いたします」
女は優雅に一礼した。
「私は銀河帝国、第3皇女ニア・エド・マク・ルード。
この区画銀河一帯の統括責任者として参りました」
護衛十名を従えた女は、音もなく歩く。
側にいるだけで、空気が変わるような圧があった。
移動の道すがら、大統領は場を和ませようと話題を振る。
「皇女殿下は、地球の文化をご存じなのですかな?
例えば釣りなど」
「ええ。
若い頃は旅をしていましたの。地球にも、一年ほど滞在しました」
「どちらの国へ?」
「日本の……会津藩でしたよ」
大統領が一瞬だけ固まる。
「……殿下。
我々の寿命はせいぜい百年。
会津藩は二百年も前に消滅した地名で……」
「まぁ。
やはり付け焼き刃の地球史学習ではだめですわね。ふふ」
皇女は肩をすくめて笑った。
歩きながら軽く言ったその一言が、
地球側に寿命の次元が違うという現実を突きつける。
席につくなり、大統領は笑顔を消した。
「あなた方の提案受け入れられません。
今回の一連の出来事、地球側からは自作自演としか見えない」
皇女の瞳が細くなる。
「確かに問題はありました。
しかし、良い方向に進んでいるとは思いませんか?
太陽バーストのデータはお渡ししました。
危機は不可避です」
大統領の顧問が口を挟む。
「データは精査しています。
しかしいつどれだけの被害が出るかは不明。
我々は確定しない脅威で動くわけにはいきません」
「ただし」顧問は書類を閉じ、皇女を見つめた。
「技術的な互恵関係には興味があります。
木星をそちらに譲渡する代わりに、
食糧、エネルギー、そして火星移民の実現を提供していただきたい」
皇女は静かに笑った。
「つまり信用できない、と」
「交渉とはそういうものだ」と大統領。
皇女は手元の端末をふわりと浮かせ、情報を投影した。
「では信用の代わりに、実利をお見せしましょう」
食料問題
「スティック一本で一日の栄養を賄えます。
ゴミからでも原子生成できますので、資源は不要。
生産量は一千万本/日。火星に工場を作りましょう」
水問題
「同じく純水一千万リットル/日を供給可能。
ミネラルは地球側で調整を。輸送は後に転送装置へ」
エネルギー問題
「太陽のエネルギーを一括吸収するダイソンシステム。
稼働まで三ヶ月。地球全体のエネルギーを賄えます」
火星移民
「反物質コアでマントル対流を再起動し、
一年で地球並みの環境へテラフォーミング」
「ただし初期の移民は危険です。
100万人の働ける者を選抜し、
宇宙船型住居で生活していただきます」
皇女は椅子に軽く背を預けた。
「火星の工場で食料・水・酸素を安定供給します。
輸送は転送装置へ移行。
転送装置は地球で製造可能です」
そして、まるで手札はまだあると言いたげに微笑む。
「これでいかがですか?」
皇女
「ただしこれらすべての対価として、木星の所有権は我々が得る。
それでよろしいのですね?」
大統領
「……提供される技術が確実に譲渡されるならば、検討します。」
大統領
「そちらの移住者は……何名を想定しているのですか?」
皇女
「一年で整備しますが、100億人です。
木星の全衛星をテラフォーミングし、コロニーは1兆基用意します。」
会議室の温度が1℃下がったような沈黙。
大統領(汗)
「……宇宙船で全員移動を?」
皇女
「いいえ。ワープと転移ゲートで送ります。」
顧問(さらに汗)
「………………」
顧問
「あなた方の技術なら、地球を侵略するなど容易でしょう。
なぜ……助けるのですか?」
皇女はふっと目を伏せ、静かに答えた。
「……我々の恒星は死にました。
1億年は戻りません。
ここは避難先です。
ここへ来るまでに、すでに1000億の民が失われました。
これ以上、誰も傷つけたくないのです。」
大統領は深くうなずいた。
「我々も殺戮は望みません。
互いを理解するため、月に共同評議会を設置しましょう。
百名規模で。」
皇女
「我々はAI〈マーズ〉がいれば十分です。
あなた方にはAIはいないのですか?」
大統領
「人間主体です。
AIに任せる文化ではありません。」
皇女は思わず苦笑する。
「それでは意思決定が遅すぎます。
地球には時間がありません。」
そして最終決定
皇女
「月の基地は我々の宇宙船をそのまま設置します。
転送装置は国連に。烏合の衆は不要です。
決定権のある者1名、必要ならブレーン10名まで。
実務は」
マーズ(メイド姿のAI)
「私が担当します。
よろしくお願いします。」
大統領は額の汗を拭い、震える声で返した。
「……よろしくお願いいたします。」
メイドが実務担当者?だった。




