第23話 発酵文明の宣言
太陽系消臭法案
銀河文明移行期・第931条
前段:問題提起
皇女殿下
「本件は、軍事でも経済でもない。」
「だが、文明存続に直結する。」
円卓には、地球、火星、土星、木星、月、商人ギルド、護衛ギルド。
珍しく、全員が顔をしかめていた。
理由は単純だ。
「匂い」
議題に上がった瞬間、失笑が走る。
地球代表
「……失礼ですが、冗談でしょうか。」
火星代表
「香水業界への配慮は?」
商人ギルド
「それで物流が止まるなら、笑えませんが。」
皇女殿下
「冗談ではないわ。」
「太陽系は、銀河基準で臭う。」
一瞬、沈黙。
俺
「正確には、未処理の生体由来揮発成分を常時放出している文明です。」
「銀河では、
・不衛生
・未教育
・信用リスク
この三点セットで見られます。」
ざわつく会場。
月代表
「……そんな理由で、交易が止まる?」
商人ギルド長
「止まります。」
「既に、非公式に距離を取られている航路があります。」
事例提示
スクリーンに映る映像。
銀河会議場、空席。
ルイ(記録音声)
「太陽系代表団が着席後、周囲半径二〇メートルが自然に空きました。」
「敵意はありません。」
「生理的忌避です。」
沈黙。
皇女殿下
「つまり」
「我々は、無意識に失礼をしていた。」
法案概要
皇女殿下
「提案します。」
《太陽系消臭法案》
第一条
太陽系外へ出航するすべての知的生命体は、
銀河基準消臭処理を義務とする。
第二条
外交・交易・軍事・移民に関わる者は、
消臭薬または同等の生理処理を必須とする。
第三条
本処理は、
・健康への影響なし
・嗜好操作なし
・人格改変なし
とする。
第四条
未処理状態での太陽系外活動は、
「文明未整備行為」として制限対象とする。
反発
地球代表
「身体への強制介入です!」
「自由の侵害だ!」
火星代表
「文化の否定では?」
俺
「いいえ。」
「靴を履けと言っているのと同じです。」
「裸で銀河会議に出ますか?」
静まり返る。
護衛ギルド長
「……納得せざるを得ません。」
商人ギルド長
「信用は、こういう所で落ちます。」
皇女殿下
「誤解しないで。」
「これは、恥をかかせないための法よ。」
「誰も、我々を見下したくて距離を取るわけじゃない。」
「ただ、文明の前提が違うだけ。」
「合わせるのが嫌なら太陽系にいればいい。」
「でも、出るなら。」
一拍。
「最低限の礼儀を持ちなさい。」
可決
賛成多数。
反対は、
「臭いは個性だ」派、少数。
クラン(小声)
「臭い個性は、個室でどうぞ。」
チャッピ
「人権侵害には該当しませんね。」
ルミナス
「……静かに革命ですね。」
後日談
ニュース見出し:
『太陽系、銀河標準消臭法案 可決』
『発酵食品の外交場持ち込み禁止へ』
俺
(文明って、こうやって変わるんだな。)
殿下
(ええ。)
(戦争より、ずっと静かに。)
俺
(でも 平和的で、いいですね。)
(誰も撃たれない。)
(誰も奪われない。)
(ただ、少しだけ気づいて、少しだけ直しただけだ。)
(銀河に出るってのは、強くなることじゃない。)
(一緒に居られるようになることなんだろう。)




