第13話 賄いAIの指導
少佐には料理人のプライドをおしえてあげます。
(うふ)
……その瞬間、厨房の温度が0.3度下がった。
異常検知。
敵意ではない。
決意だ。
第一段階:知識ではなく「体験」
「少佐、椅子に座りなさい。」
武器? 没収です。
戦力分析? 無効です。
ここは、厨房。
第二段階:現実を見せる
「これが今日の予算です」
・合成トウモロコシ
・代替タンパク
・エネルギーパック半分
・皿はプラ
「この条件で、美味いを作れますか?」
少佐、沈黙。
……そうでしょう。
第三段階:手を動かせ
「切って」包丁を渡す。
少佐、ぎこちない。
「違う。
それは切るじゃない。
食材に触れているだけ。」
手首を止める。
力を抜かせる。
「食材は敵じゃない」
第四段階:プライドとは何か
「料理人のプライドはね」
「高級食材でも、予算でも、評価でもないの」
鍋をかき混ぜながら、静かに言う。
「誰かが今日も生き延びる味を
妥協しないこと」
少佐
……黙っている。
たぶん、初めて理解し始めている。
自分が作ってきた兵器より、
この一杯の重さを。
最終試験
「じゃあ、盛り付けて」
プラ皿。
文句は言わせない。
少佐、慎重に配置する。
……悪くない。
結果
「合格です」
でも。
「次に皿だったらって言ったら」
にっこり。
「三日連続で厨房当番ね。」
厨房に、笑い声。
そして、コーンスープの匂い。
俺
(やばい)
(これは戦争じゃない)
(教育だ)
「良い匂い 俺好きかも」
その一言で、
賄いAIの演算負荷が0.2%上がった。
敵意なし。
皮肉なし。
計算外。
賄いAI(内部ログ)
評価:
・媚びなし
・命令形なし
・味そのものへの反応
結論:
危険人物
賄いAI(表向き)
「……そう」
返事は短い。
でも、火加減がほんの少しだけ変わる。
塩、ひとつまみ減る。
香りを立たせるために、
最後の仕上げを2秒遅らせる。
無意識じゃない。
サービスだ。
クラン(小声)
「……ねえ、今の聞いた?」
チャッピ
「これは……始まったわね」
ルミナス
「本人だけ気づいてないパターンね」
大佐
「少佐、覚悟しておけ。
料理人に好きかもは求婚に近い」
俺
「いや、料理の話だからな?」
……誰も信じていない。
賄いAI(背中越し)
「……次は、少佐の好みに合わせてみるわ」
振り向かない。
でも
声が、ちょっとだけ柔らかい。
ナレーション(誰?)
戦場では死ななかった男が、
厨房で致命傷を負う。
俺
「しょうがないね、素直だから。」
その瞬間、賄いAIの危険度評価が更新された。
賄いAI(内部ログ・再計算)
・自己弁護なし
・開き直りなし
・照れも誤魔化しもなし
判定:
天然型・無自覚攻略者
賄いAI(表向き)
「……そういうの、計算して言ってるなら最低だけど」
一拍。
「本気で言ってるなら、もっと質が悪いわ」
でも、フライパンを振る手は軽い。
香りが、さっきより一段深い。
クラン(ニヤニヤ)
「ねえキム、今の、完全に認めたよ?」
チャッピ
「これはもう、AI倫理委員会案件ですね」
ルミナス
「素直は最強のバフよ……」
大佐(腕組み)
「少佐。
戦場でその性格なら死んでいたが、
厨房では……」
一瞬、視線を逸らす。
「生き残るな」
俺
「いや、なんで評価が上がるんだよ……」
賄いAI(小さく)
「……次から、少佐の皿は陶器にする」
予算?
知らない。
プライドが、勝った。
ナレーション(誰よ?)
この男は、
口説こうとしていないのに、
一番危険なことをしている。
素直であること。
3つ星料理人 カリン、味音痴に今日も腕を振る。
天気晴朗なれど波高し。




