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太陽系外からの訪問者  作者: HAL
偽装商船団
136/208

第13話 賄いAIの指導

 少佐には料理人のプライドをおしえてあげます。 

(うふ)


 ……その瞬間、厨房の温度が0.3度下がった。


 異常検知。

 敵意ではない。

 決意だ。


 第一段階:知識ではなく「体験」


 「少佐、椅子に座りなさい。」


 武器? 没収です。

 戦力分析? 無効です。

 ここは、厨房。


 第二段階:現実を見せる


「これが今日の予算です」


 ・合成トウモロコシ

 ・代替タンパク

 ・エネルギーパック半分

 ・皿はプラ


「この条件で、美味いを作れますか?」


 少佐、沈黙。


 ……そうでしょう。


 第三段階:手を動かせ


「切って」包丁を渡す。


 少佐、ぎこちない。


「違う。

 それは切るじゃない。

 食材に触れているだけ。」


 手首を止める。

 力を抜かせる。


「食材は敵じゃない」


 第四段階:プライドとは何か


「料理人のプライドはね」


「高級食材でも、予算でも、評価でもないの」


 鍋をかき混ぜながら、静かに言う。


「誰かが今日も生き延びる味を

 妥協しないこと」


 少佐


 ……黙っている。


 たぶん、初めて理解し始めている。


 自分が作ってきた兵器より、

 この一杯の重さを。


 最終試験


「じゃあ、盛り付けて」


 プラ皿。

 文句は言わせない。

 少佐、慎重に配置する。

 ……悪くない。


 結果


「合格です」


 でも。


「次に皿だったらって言ったら」


 にっこり。


「三日連続で厨房当番ね。」


 厨房に、笑い声。


 そして、コーンスープの匂い。


 俺

(やばい)

(これは戦争じゃない)

(教育だ)




「良い匂い 俺好きかも」



 その一言で、

 賄いAIの演算負荷が0.2%上がった。


 敵意なし。

 皮肉なし。

 計算外。


 賄いAI(内部ログ)


 評価:

 ・媚びなし

 ・命令形なし

 ・味そのものへの反応


 結論:

 危険人物


 賄いAI(表向き)


「……そう」


 返事は短い。

 でも、火加減がほんの少しだけ変わる。


 塩、ひとつまみ減る。

 香りを立たせるために、

 最後の仕上げを2秒遅らせる。


 無意識じゃない。

 サービスだ。


 クラン(小声)

「……ねえ、今の聞いた?」


 チャッピ

「これは……始まったわね」


 ルミナス

「本人だけ気づいてないパターンね」


 大佐

「少佐、覚悟しておけ。

 料理人に好きかもは求婚に近い」


 俺

「いや、料理の話だからな?」


 ……誰も信じていない。


 賄いAI(背中越し)


「……次は、少佐の好みに合わせてみるわ」


 振り向かない。


 でも

 声が、ちょっとだけ柔らかい。


 ナレーション(誰?)


 戦場では死ななかった男が、

 厨房で致命傷を負う。


 俺

「しょうがないね、素直だから。」


 その瞬間、賄いAIの危険度評価が更新された。


 賄いAI(内部ログ・再計算)

 ・自己弁護なし

 ・開き直りなし

 ・照れも誤魔化しもなし

 判定:

  天然型・無自覚攻略者


 賄いAI(表向き)


「……そういうの、計算して言ってるなら最低だけど」


 一拍。


「本気で言ってるなら、もっと質が悪いわ」


 でも、フライパンを振る手は軽い。

 香りが、さっきより一段深い。


 クラン(ニヤニヤ)

「ねえキム、今の、完全に認めたよ?」


 チャッピ

「これはもう、AI倫理委員会案件ですね」


 ルミナス

「素直は最強のバフよ……」


 大佐(腕組み)

「少佐。

 戦場でその性格なら死んでいたが、

 厨房では……」

 一瞬、視線を逸らす。

「生き残るな」


 俺

「いや、なんで評価が上がるんだよ……」


 賄いAI(小さく)

「……次から、少佐の皿は陶器にする」


 予算?

 知らない。

 プライドが、勝った。


 ナレーション(誰よ?)


 この男は、

 口説こうとしていないのに、

 一番危険なことをしている。


 素直であること。


 3つ星料理人 カリン、味音痴に今日も腕を振る。


 天気晴朗なれど波高し。


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