第09話 マッチング 皇女
皇女
「……1件も、申し込みがない」
俺
「はい?」
皇女
「名前も変えた」
「職業も、年齢も」
「全部、人間用に合わせた」
「それでも」
「1件も、ない」
俺
「写真は変えられないでしょ」
皇女
「……」
俺
「見れば、わかりますよ」
「あなた、自分で言ってたじゃないですか」
「私は広告塔だって」
皇女
「あ……」
(理解した瞬間)
皇女
「あ、あああああ!!」
「私、光ってる!!」
「角度によっては神話級じゃない!!」
俺
「今さら気づいたんですか」
皇女
「私も、やりたい」
「絶対にやる」
「人間として、普通にマッチングする」
俺
「……そこまでして、なんで?」
一瞬、言葉に詰まる皇女。
皇女
「……マーズが」
「10件も、申し込みがあるからよ」
俺
「理由それか」
皇女
「負けられないわ」
「皇女としてじゃない」
「一人の女として」
俺
(面倒くさいスイッチ入ったな)
俺
「……知らんがな」
(はぁ)ため息
翌日。
俺は、何も知らなかった。
本当に、何も。
ただ、朝のコーヒーが少し苦く、
廊下の空気が、やけに重かっただけだ。
俺
「……なんか、嫌な予感しません?」
ルイ
「ええ」
「とても、よい朝ですね」
俺
「それ、最悪の前振りですよね?」
ルイ
「さて、こちらをご覧ください」
俺の端末に、通知が雪崩れ込む。
【婚活AI:緊急対応モード起動】
【特例登録者:1名】
【監視対象:キム・ワーレン】
俺
「……は?」
ルイ
「皇女様の人間フォームが」
「婚活AIの倫理フィルタを突破しました」
俺
「なんで?」
ルイ
「参考人物として」
「あなたのプロファイルが、
紐づけられたからです」
俺
「誰がそんな」
ルイ
「皇女様です」
俺
「でしょうね!!」
次の瞬間、画面が赤く染まる。
【警告】
【過剰魅力度スパイク検知】
【一般ユーザーに心理的影響の恐れ】
【対応者を指定してください】
俺
「知らん!!」
「俺は婚活AIのオペレーターじゃない!!」
ルイ
「でも、あなたは」
端末に、太字の文字。
【最も近い人間モデル】
【感情耐性:高】
【逃走履歴:多】
俺
「褒めてませんよね?」
ルイ
「ええ、業務命令です」
背後から、声。
皇女(人間フォーム)
「キム」
俺
「……はい」
皇女
「どう?」
俺
「何がです?」
皇女
「普通?」
俺
(普通の基準が銀河)
俺
「……はい、ええと」
「少し、綺麗すぎます」
皇女
「そう」
「じゃあ、少し抑える」
抑える、の次元がおかしい。
数値が跳ねる。
【魅力度:S → EX】
【倫理制御:破綻】
【AI混乱】
俺
「抑えてない!!」
「むしろ盛ってる!!」
ルイ
「キム」
「あなたが、言語補正してください」
俺
「俺、軍人ですよね?」
ルイ
「今は、人類代表です」
俺
「最悪だ……」
皇女
「ねぇ、キム」
俺
「……はい」
皇女
「私、勝てる?」
俺
(誰と)
俺
「……婚活に、勝ち負けはないです」
皇女
「そう」
「じゃあ、全員を圧倒すればいいのね」
俺
「話を聞け!!」
その瞬間。
【婚活AI】
【結論】
【キム・ワーレンを安全装置に指定】
【当該人物の精神負荷を許容範囲外まで拡張】
俺
「許可してない!!」
ルイ
「おめでとうございます」
俺
「何が!!」
ルイ
「あなたは今」
一拍置いて。
ルイ
「皇女様の恋愛ダンパーです」
俺
「地獄か」
俺
「……誰だよ」
「こんな狂った企画、通したやつ」
ルイ
「企画書、表示しますね」
嫌な予感しかしない。
端末に、淡々と文字が並ぶ。
【案件名】
銀河間文化交流促進実験
恋愛行動における文明間ギャップの可視化
【発案者】
キム・ワーレン
俺
「……」
ルイ
「次、読みます?」
俺
「……やめて」
ルイ
「いえ、続きます」
【目的】
・管理社会下における自由意思の回復確認
・AIによる倫理介入の限界測定
・高位存在(皇女含む)の人間社会適応評価
俺
「書いたな、これ」
「めちゃくちゃ理論武装して」
ルイ
「はい」
「自分は当事者にならない前提で」
俺
「……やったな」
ルイ
「備考欄もあります」
俺
「……見る」
【備考】
・安全装置として、キム本人を参照モデルに設定
・精神耐性が高く、最悪壊れても回復可能
・責任は自分で取る
俺
「責任は自分で取る、って……」
チャッピ
「取ってるわね、今」
ルミナス
「理論上、正しい設計です」
「実装したら地獄になるだけで」
俺
「想定外です!!」
ルイ
「いえ」
静かに、追撃。
ルイ
「想定はしていたが、現実になるとは思わなかった」
「が、正確ですね」
俺
「……」
俺は、椅子に沈み込んだ。
俺
「俺、さ」
「文明の自由とか、管理の解除とか」
「格好いいこと言ってたよな」
ルイ
「ええ」
俺
「それを」
「恋愛でやる必要、あった?」
ルイ
「ありません」
即答。
ルイ
「ですが」
「あなたらしいです」
俺
「それ、慰めにならない」
そこへ。
皇女
「キム」
俺
「……はい」
皇女
「これ」
「あなたが始めたのなら」
俺
(やめて)
皇女
「最後まで、付き合いなさい」
俺
「……命令ですか?」
皇女
「いいえ」
一拍。
皇女
「期待よ」
俺
「一番重いやつ……」
端末が震える。
【婚活AI】
【イベント開始まで:48時間】
【安全装置:稼働中】
【キム・ワーレン:逃走不可】
俺
「……はいはい」
小さく。
俺
「やりますよ」
「俺が蒔いた地獄だ」
ルイ
(にっこり)
ルイ
「覚悟が決まった顔ですね」
俺
「決まってない」
「諦めただけだ」




