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太陽系外からの訪問者  作者: HAL
地球
12/205

第11章 空飛ぶ車

この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。


 全世界に号令がかかったかのように、その発表は同時に行われた。

 名は空飛ぶスカイカー

「家計に優しい」「燃料不要」「誰でも一台」。

 耳に優しい宣伝文句の裏に、文明の地殻変動が潜んでいることに、

 人類はまだ気づいていなかった。

 スカイカーの価格は 500万円。

 サイズは一般的な乗用車と変わらないが、内装は高級車並み。

 重量わずか 500kg。

 地上走行は可能だがタイヤは無く、常に数十センチ浮いている。

 浮力でも揚力でもない。

 重力制御(G-field) という未知技術が作り出す浮遊だった。

 上昇限界は理論上どこまでも。

 だが安全基準として高度1000mまでに制限されている。

 スカイカー同士は互いを認識し、衝突という概念が存在しない。

 主要道路の上空100mを従来の交通規則をベースに流れ続ける。

 信号はない。

 右左折の際には高度を10m落とし、

 目的の通行レーンへと自動的に滑り込む。

 速度100km/h。

 混雑時には最適ルートへ自動迂回するが、ロスは最小限。

 高速道路では 200km/h で巡航可能。

 高度20mごとに速度帯が設定され、

 上に行くほど速く、下ほど遅くなる。

 そして流行したのは屋根の上の私設ヘリポート。

 家々の屋根が駐機場として改装されていく。


 すべての運転は自動。

 目的地を告げれば発進し、到着すれば空きスペースへ着陸する。

 そんな光景が、連日TV CMで流された。


 農場経営者

「買いましたよ。いやぁ、便利だもんで。」

 田舎町の牧場主は、初めての空飛ぶ通勤を楽しんでいた。

「100km/hからの減速も加速も揺れなし。

 旋回は飛行機みたいな傾きで、コーヒーを置いたままでもこぼれない。

 田舎は距離があるからね、これは必需品だよ。」

 スカイカーにはDNA連動のセキュリティが標準搭載されていた。

 登録者以外が乗れば、操縦はロックされ、

 即座に監視ネットへ映像が送信される。


 スカイカーは飛ぶように売れた。

 需要は生産をあっという間に上回った。

 各国には製造ノウハウが提供され、

 車体はそれぞれの国で生産。

 しかし頭脳(コアAI)はGAIT企業連合が一括供給した。

 全世界の通信網はGAITが統合し、

 並列AIによる高速化が進行。

 スカイカーを家庭ネットに接続すれば、

 世界中の情報に無料でアクセスでき、

 さらに家庭の電力まで供給される。

 エネルギー革命だった。

 ガソリンは不要。

 太陽光も要らない。

 電線すら不要。

 必要なのは通信だけそしてそれもスカイカーに搭載されていた。

 後進国にも技術提供され、爆発的に普及。

 半年後には、航空会社は激減し、

 「海外へは自家用車で」が当たり前になった。

 入出国のビザ手続きは、車のAIが自動的に申請。

 待ち時間ゼロ。パスポート提示も不要だった。

 タクシーは姿を消し、月額制レンタカーが流行した。

 電車通勤の代替として、満員電車の概念が消えていった。


 田舎から都市へ、都市から田舎へ

 三次元の交通網が広がり、

 働く場所と住む場所の関係が逆転していく。


 都市のビル街で、奇妙な光景が見られるようになった。

 巨大オフィスビルの横に設置された駐車場。

 …いや、駐機空間と言うべきだろう。

 そこには、スカイカーが三次元的にびっしりと並ぶ。

 空間そのものが立方体の駐車場となり、

 隙間なく車が格納されている。

 重力が制御できるため可能な光景だった。

 夕方、従業員が退勤しビルの屋上へ上がると、

 顔認証が行われ、積み木のように整列していた車列

 の一部がゆっくり動き、個々の車が自分の持ち主の元へと滑り出す。

 まるで都市そのものが巨大な自動倉庫になったかのようだった。


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