第10章 火星テラフォーミング
この物語は、我々の世界とよく似た、別の世界の話である。
「……確かに、疑う余地はあります。しかし」
科学顧問は、
深く息を吐きながら続けた。
「彼らは救うために計画を提示しています。
太陽系を脱出し、火星へ避難すれば助かる、と。
そのための宇宙船の設計図、動力源、必要材料……
すべて火星に残してあるそうです。
火星は、すでにテラフォーミング計画が動き始めており
一年以内に人が住める環境が整う見込みです。」
さらに、報告は続いた。
「木星の衛星には、銀河間航行可能な全長50kmのコロニーが、
ロボットによって建造されています。
木星のエネルギーとアステロイドベルトの資源を用い、
現在も何十隻も同時建造中とのことです。」
会議室が静まり返る。
「我々も技術提供を受け、一部開発に成功しました。」
技術者が手元の資料をめくる。
「ブラックホールエンジンです。
拳ほどの大きさで、100トンの機体を 20m/s² で永久加速できます。
入力は宇宙線。
出力は重力そのものの生成と消滅。
地球もすでに、
このエンジンを搭載した試作宇宙船が試験飛行を終えています。」
「ならば」誰かが呟いた。
「その宇宙船を大量生産し、
地球全人口を火星へ移動させるしかない。だが……60億人だぞ?」
その声には絶望が滲んでいた。
「彼らは、それを分かった上で提示したのでしょう。」
科学顧問は静かに言う。
「これは試練です。
人類に未来へ進む資格があるか。
まるで、神が試しているかのようだ。」
別の資料が配られた。
「ノアの方舟計画は進行中です。
AIによるDNA選別が行われており、
地球生命のDNAの80%はすでにデータ化
されて宇宙船に保管されています。
人工孵化装置の技術提供も受け、
移住後に地球生態系を再構築する準備も整いつつある。」
そして、恐ろしい結論が付け加えられた。
「……最悪の場合、地球は再生します。
ただし数億年かかります。
太陽の活動は今後さらに活発になり、
制御は不可能だと彼らは述べています。」
沈黙。
「一年後がリミットで、
火星への移動を開始しなければなりません。
しかし、これを今公表すれば世界中でパニックが起きる。
政府は動かず、我々は逮捕され、計画が止まる。」
言葉を区切り、彼は核心を述べた。
「だからまずは産業構造の転換です。
宇宙船を車並みに普及させなければならない。
食料問題もあります。
小型船(10名乗り)でも火星まで30日、
移民船(1000名)は60日。
その間、膨大な食料が必要ですが……
彼らから提供されたスティック型栄養食が量産体制に入りました。
1本で1日分。
これで最低限の問題は解決できます。」
スクリーンには残酷な数字が映し出されていた。
先進国20億人 → 1%が自前で移住可能
後進国40億人 → ほぼ移住手段なし
必要な移民船総数 → 60万隻
生産速度 → 月1万隻
必要期間 → 60ヶ月(5年)
リミット → 1年
到底、間に合わなかった。
科学顧問は、静かに目を伏せた。
「……火星移住は全人類規模の問題です。
私たちには、もはや時間がありません。」
会議は結論を出せないまま終了した。
しかし、その裏で、
彼ら(地球側科学者と一部政府関係者)は、
世界産業そのものを宇宙時代仕様へと組み替える計画を、
すでに暗躍させ始めていた。




