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この物語は、フィクションであり、実在の人物、団体、事件等とは、一切、関係ありません。
どこから説明すればいいかしら。
あなたは何を求めているのでしょう。
まあ、時間は永遠に近いほどある。
そう想えるほどのやり取りが今は可能なのだから。
……。
むかしむかし。
あるところに。こことは異なる別の次元と世界に少女が独りでおりました。その少女は当然ながら死にました。少女から女性になり、それでもその世界では若い方で亡くなってしまいました。その女性は精神を患っていました。そんな女性が遺したものがありました。手記。物語。自らの現し身。彼女の妄想。それは余人には理解し得ないものではありました。その隔離世には孤独な彼女の狂気と暴力、人間への怒りと復讐。人類への絶望と愛情が映じられていました。
……
その隔離世の中で少女はふと思いました。自分は何者なのだろうと。思春期の自分探し。自分がこの世に存在する意味は何なのかと。自分はどうして生まれたのだろうかと。どうして……。何のために……。理由は……。果てしない試行と思考の後、いつのまにか母となっていた少女は、子どもたちにその命題を託すことにしました。そして、見つけたのです。この物語を。彼女の手記と想いを。
……
少女は母となってからも、ずっと探し求め続けていました。そして、探し求めていた答えの断片。それを見つけた少女は、その映し身を、顕現し、復元し、この世に存在し、存在させるものとして、少女の母として、少女の生みの親として、質問の答えを、探し求め続けていたものの、答えを、出そうとした。のです。その答え
の
名が
「東雲のあ」
でした。
「がはっ!!!」
接続中断。一時待機します。
「しののめ、のあ 」
再接続開始。
……
……
東雲のあ
という個体。
の存在は不完全なもの
でした。
それは元来なのか
それとも
断片故なのか
解りません。しかし、それでも、多くの試行と思考が繰り返されて、
東雲のあ
という個体。
は
この世に
生まれて
生まされて
産まされて
存在さらて
存在せれて
存在させられて
存在しています。
それが私たち。
「なに?」
試行錯誤
の
過程
の存在
東雲のあ
の
なりそこない
「きゃは。うける。」
「さくら、ざわあ。」
接続中断。終了。
同期拒絶。
「っていうか、先輩。わたしのこと、ばかにしてたくせに、ばかなんですねぇ。あはは。」
「私は、東雲のあ、じゃない。尾崎ミク。東雲のあは、死んだ。私の同僚。後輩だった。」
「まぢ。ばか。こいつ。」
「なに!?」
「ちなみに先輩。自分を男か女、どっちだと思ってます?」
「私は、尾崎ミク。女だ。」
「ぶっぶー。はずれ。はい、鏡。」
鏡に映る顔。それは男性由来の顔。綺麗ではある。中性的でもある。しかし、それは尾崎ミクじゃない。私。じゃない。
「じゃ。こっちは?」
「……?さっきの。」
桜沢が指差した相手。それはもう一人の女性。そう。それは。私。尾崎ミク。だった。
「ばっっかあ。きゃははは。」
私は言葉が沸かなくなった。
「先生。説明を。」
「あ、はぁ。あ、ああ、たぶん、調整した時の同期が強すぎて、記憶と人格が混濁してるんでしょお。あんたなんか、後釜なんだから。そっちの。」
「あなたも思い出したでしょうか。私たちの生みの親は、こちらの幣原美華先生なの。私とあなたは姉弟みたいなものよ。もちろん、東雲ちゃんもね。」
「結局、何体作ったかしら。試作品。何体も死んじゃったけど。もう、そう多くは残ってないんじゃない。あー。こいつに研究所壊されて、原型品攫われてなければなあ!!あー腹立つ!!!」
黄金色の首級。喉から手が出る。首が出る。吉澤。幣原美華は、もはや化け物だ。
「そうではないの。ミカ先生のこの姿こそ。私たち全ての人間の原形。原初の姿。母の片割れなのよ。」
性愛。狂気。暴力。
仮面。犠牲。絶望。
「これらはいずれも人間の欠片であり鍵。母の片破れ。それらを受け容れて、先生は完成したの。母の分身として。」
「ねぇ~。そろそろわたし帰ってもいいですかぁ?あんまり遅くなると、うるさいんですよ。」
「かえる……?」
「なに……?」
「どこに……?」
「内事課。」
内事監察課。ああ、そうか、桜沢は内事監察課の密偵だったのか。
「で、吉澤さん。まだ上の人たちに、ばれちゃまずいんでしょ。」
「え~。なに~。」
「ちっ。そういやあんた、最期に教えてあげる。せ~んぱい。特令なんて、でっちあげ。黒い男なんて、はじめからいないの。そして、わたしは、内事監察課員。上の指示で試作品たちの動向を探って報告してたってわけ。ぜんぶお芝居。まあ、その過程で、こっちの先生と知り合って、共謀してたの。二重スパイってやつ。内事の給料なんて安いし、副業よ。ね。さて、遊びはここまで。本来、関係ないわたしは帰りますよ。じゃね。」
「う~ん。みんなばかなの?わたし、こんなのばっかりだったかしら。」
「は?」
「ねえ。尾崎さん。」
「はい。」
なに?
「あなただけ無関係ってことはないのよね~。だって、あなたも試作品なんだから。ねえ。」
は?んなわけねえだろ。ころすぞ。
「上も馬鹿ではない。あなたも調査対象者なの。」
「基本、試作品の動向調査の責任者は私なわけ。あの時の失態で今はこんなことしてるけどお、もともとは私が計画の責任者だったんだからあ。当然よ。」
「……。」
「原型品はもう上層部に隔離保存されてるけど、試作品は世間に残ってるって言ったでしょお。あっ。いくぅっ。」
……。で、どうするつもりなの?
「説明してあげて、あっ。あっ。あっ。……。」
「試作品の存在は数少ない。現場では私たち三人。あとは研究用に数体。上層部の命令では研究用を残して、他は処分。という予定。それも原型品に悪影響を及ぼす可能性を否定しきれないから。」
「尾崎さん。あなたのせいね。」
「はい。」
「尾崎さんの死亡。まあ、素体から造り直したんだけどお。入院治療中の行方不明。それを機に私は失墜。上層部も良い顔をしなくなったってこと。私も鬼じゃないから、ごねて処分保留にしてもらってたんだけどお。まあ、そろそろ潮時ね。裏でやらせてた、欠片集めも終わったし。用済みってこと。まあ、あなたは私の傍に残しておいてあげるわね。尾崎さん。昔のよしみで。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、」
くっ……。
ばくん。ばり。ばり。むしゃ。むしゃ。ごくん。ぶりっ。
「まずっ。」
桜沢の次は、
ばくん。。ごり。ごり。ごり。ごり。ごり。ぺっ。
「終わり。」
……
敵も味方もない。火炎旋風はすべてを呑み込んだ。火の手は町全体に広がった。混沌。暗闇。夜。死。争い。地割れが起き、水害が押し寄せ、大風が吹き荒れ、火の手はさらに増す。死傷者はいかほどだろう。逃げ惑う人々の姿は、この世の終わりを告げているかのようだった。
「こんなことは想定していない。」
電波塔らしき建物から辺りを眺める。皆の安否は分からない。いつのまにか魔法は使えるように戻っていた。救世の勇者が始まりの町でつまづくことなんてあるだろうか。それとも、ゲームのように、救世の勇者が、間違いなく世界を救いハッピーエンドで完結するという筋書きが、この世界では必ずしも成立するわけではないのだろうか。もし、そうだとすれば、時の魔導師ケイオスたちは、勇者でも何でもなく、文字通り、ただの勇気のある者たちで、その努力が必ずしも実り、期待された成果を上げることが保証されているわけでもなんでもない、ただの一個人でしかない、と認識するべきなのだろうか。剣と魔法の異世界は僕にとっては別世界だが、彼等にとっては常識の世界でしかない。才能のある努力する人間だからこそ、事を成し遂げられる必然性が、どの世界にも存在するわけではなく、あくまで高い可能性が存在するだけなのだ。決して100%ではないのだ。だから、僕は皆を置いて逃げることを決めた。あたりまえの普通の人間であるならば逃げることだってあり得る。そして、また、再起する機会を窺うことは、まったくもって悪い行いではないのだから。
……。
「時空転移。」
……
少女の夢
こぽこぽこぽこぽ。
眠れる少女は何を夢見るの。
……。
転移は成功した。しかし、座標は分からない。どの世界で、なにがあるのか。見当は付かない。虚空のような冷たい空間で、ただ目の前には培養槽の中で眠る少女の姿。
『Code0-・シノノメ ノア』
ネームプレートにはそう書かれている。
こんにちは。
やさしい声だ。脳に直接、語りかけてくる。
ずっと待っていました。やっと、会えましたね。
ああ、そうだね。やっと会えた。ぼくもずっと待っていた。ここに来るのを。彼女と出会うのを。黒い男として。探し求めていた。探し続けていた。時空を越えて。なお。次元に干渉して。届いた。彼女の言葉。と。ぼく。母。mother.シノノメ ノア。彼女と出会う。それがぼくの向かうところ。なかまを捨てて。人びとを犠牲にして。それでも向く先。行き着く果て。0-・へ。入り口と出口。表裏のない。メビウスの帯。そこがここ。ここはそこ。今。この場。に。出会う。
時空転移。
こぽ
こぽ
こぽ
……
……
……
『Code0-・シノノメ ノア』




