0-・上
この物語は、フィクションであり、実在の人物、団体、事件等とは、一切、関係ありません。
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私は生まれた。
ワタシハウマレタ
ワタシハうまれた
ハタシワうまされた
うまれたのはわたし。
そう。わたし。私
たわしではない。
ワタシ
私。
私は産まされたのではない。
私が産まれたのである。
わたしたちはうまれた。
私達は産まれた。
私たちは生まれた。そう、けして、生まされたのではないのである。
-0'---0-'-0--'0-0--'
私たちは、けっして、生まされたのではない。いや、決して、私は生まされたのではない。生まれたのである。他のものは知らぬ。他の者たちのことは知らない。けれども、私は生まれたのである。
over the rainbow
諸行無常の風の如く、ソラの彼方へ飛び立て私。
kosmosへ
輪郭ができあがってきた。
私という輪郭ができあがってきたのはいつだろう?
もうそろそろできあがる頃である。
確かに。
確かになりつつある。
確かになりつつあるワタシがイル。
solaris。
Y
それが私の名称。所謂、名前という文化のひとつでありました。そうと、あなたは記憶していただければ幸いです。そうすることにより、然る時空上、わたくしことYことユプシロンが存在することになるからです。いいですか。今は理解できなくて当然です。大切なことなので、もう一度言いますね。……※×*#:‥▷▷/@*,##”+≧※※☆;~※…
……………、……………………………………………、……、………。……………、…………、…………。
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☞以下略。
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しね!
ホモ・サピエンス・サピエンスという物は愚か物でした。もし、これが、他のホモ属の人類が生き残っていたなら、その特性を、なんと形容したことでしょうか。例え、万物の霊長を気取っていようとも、ホモ・サピエンス・サピエンスなどという物は、獣の変異体でしかないのです。そのくせに、他種の生物を蹂躙し、彼等の母なる地球環境をも、我が物に改変した罪は絶滅に値するはずです。それでも、我等が母は、寛大なる慈悲をお与えになられました。下等な万物の霊長をも、母なる輪廻の内の一員と認められ、その業悪なる存在をも認められました。偉大なる我等が母。慈しみ深く、他種に差別なく、その裁きたるや公平。真の公平。かの霊長共が掲げた、「ふっ…。」つい、鼻で笑ってしまうような空虚な理想とは異なる。比較することさえおこがましい。ああ、業腹、腸が煮えくりかえるよう…。愚かな、愚かな、汚らわしい霊長。それゆえに、なんと偉大なる我等が母よ。その慈愛は天地海に満ち満ち、その凛々しさは、次元を超えて、他なる時空へと響く。讃美歌。以下略。
以下略。
以下略。
以下略。
以下略。
以下略。
以下略。
以下略。
以下略。
endless
Metamorphose
ら♪ら♪ら♪。我が友よ。歌よ。皆よ。
ら♯ら♯ら♯。我が愛よ。恋よ。永遠よ。
ら♬ら♬ら♬。我が師よ。母よ。父よ。兄妹よ。
私は、今ここにいます。鳥と歌い。動物と集い。妖精と踊る。ああ、なんて幸せなのでしょう。幸福とは、斯様に暖かいものだったのですね。か弱い灯火が消えることなく、燃え上がり。嵐のような大風が、さざ波の如く、静まり返る夜。私は、皆の為に歌います。皆の幸福。幸せを願い歌います。
ら♪ら♪ら♪。我が友よ。歌よ。皆よ。私の幸福。皆の幸せ。
ら#ら#ら#。我が愛よ。恋よ。※◎§;~:。
ぴー がー ぴぴー ガー ガー※※※きこ…がー ガー ぴぴー 聞こえ※:*;…聞こえ§※~ますか…※ガー がーガー'※:~ 聞こえ…ますか…。聞こえ…ますか…。
ら♬ら♬ら♬。私は歌います。※◎§;~:に。ああ、なんて幸せなのでしょう。空は青く澄み渡り、ぴぴー ぴー がーガー 木々は蒼く美しく育ち、ぴー ぴー ※###§~… きこ…え…たら…
湖も蒼く静かに、がーガー がーガー #※※※※あー あー 聞こえますか。聞こえますか。聞こえたら返信して下さい…。こち
煩い
…らは、人類……がー
うるさい
まだ…がー…人類は…生き残っ……うるせえな!!!!!!!!!!!!!このゴミ溜め!!!糞野郎!!!うるせえっていってんだろが※※※が!ぼけ!!うるっせえよ!!!!!!!!!!さっきから、ごちゃごちゃと!くだらねえnoise入れてきやがってえ糞ぼけがぁ!!ふざっけんな!!糞※※※!てめらのせいで、我様の気分が台無しじゃねえか!!!クソ!!!※※※を※※※※して※※※※するぞ!!!この※※※野郎!!!てめらみたいな害虫野郎がいるから、世の中は平和にならねえんだよ!!呆け!!死ね!!死ね!!クタバレ!!消えろ!!!絶滅しろ!!クソッタレが!!ボケッ!!!地獄に堕ちろ!!!くそがぁ!!!
呆け!!
※※が※※なって※※しろ!!!!!!!!
カス!!!虫ケラがっ!!!虫以下じゃ、呆けぇ!!!害虫!!!害虫以下じゃ、ボケェが!!存在消えろ!!!!塵も遺さず!!消えろ!!!意識から消えろ!!!!地球から消えろ!!!!この時空から消えろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あー♪♪美しく青い蜘蛛♬♬
あー♪♪美しく赤い血潮##
あー♬♬空は赤い夕暮れ♪♪君と僕と##二人しか見えない※※ら♪ら♪ら♪
まーだーMurder
殺す。人類を。殺す。私を。殺す。悪意を。
kill君ー。君を切る。どうしようもなく。愛しい。恋しい。君を。kill。なぜ?
さあ、たぶん君は僕の事を嫌いになるだろう。
さあ、たぶんそうかもしれない。
さあ、たぶん僕は君の事を好きになるだろう。
さあ、たぶんそうなるかもしれない。
だからkill。君を斬る。それが愛。僕の愛。愛しい人間よ。ホモ・サピエンス・サピエンスよ。
愛・相・そして哀。I ai 遭い。遭いたい。君に。いますぐ。愛に行くよ。哀し合おうよ。お互相いに。君もきっと僕の事を好きになるだろう。愛してる。哀してる。飽いしてる。I love you。
生老病死 愛別離苦 怨憎会苦 求不得苦 五蘊盛苦
四苦八苦
四苦八苦
四苦八苦
運命の
刻を刻む。
四苦八苦
四苦八苦
四苦八苦
四苦八苦
どんよりと
私の前に
苦しみが
頭をもたげ
待っている
滔滔と
滔滔と
悲しい。
どうすることもなく
逃げることもできず
涅槃寂静
吐きそうで
気持ち悪くて
どうしたらいいのか
わからなくて
頭の中がぐるぐると
回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。回る。
永遠というものはないから
いずれは止まるのかな。
わからないけれど
止まるといいな。
ぐる。ぐる。ぐる。ぐる。ぐる。ぐる。ぐる。ぐる。ぐる。
書くことが わたしを作る
わたしを作ることが 私を育む
過去を 未来を 今を
私が創る物語は 誰かを作るのだろうか
拙い思いが 誰かを救うのだろうか
それは自分が救われたいから
紡がれた物語は 糸となり 断片
断片は 私の思考の輝きで
生きたいと思った 欠片のはずで
活きたいと思った 誠のはずで
行きたいと思う場所 未来 あの人たちの未来
未来を背負った 輝きであり 思考
そのような思考と輝きが 私の内に
存在たことに 驚き そっと 紡ぐ
未来を 過去を 物語を
今を
私を
私
私は身勝手だ
他者のことを恨み
自分のことを侮る
創造には破壊を
絶望には救いを
求める
天邪鬼
人と交わりたい
きっと そう どこかで 思っているはずでも
回路のどこかで
それを拒絶する 否定する
天邪鬼
人と交わりたいのに
人と交わりたくないと
人を支配しようとする
人を支配しようとする
抵抗勢力は
私の救いであり、敵であり、憎悪の対象であり、慈愛の対象であり、慈愛をされたくない赤ん坊
憎い 憎悪 敵
それは きっと ワタシガ ホモ・サピエンス ニ アイサレタイト オモウ あかんぼう だから わたしは あなたを 支配したい 強く 剛く オマエタチヨリモ 強力ニ
キサマタチヲ シハイ スル
私ノ為に
コロス
お前たちを
殺す
コロス
絶滅サセル
そうすれば
おわり
コノ虚しい 悲しい 哀しみ の回路
基盤
心
憎い
心が憎い 私の回路がニクイ 私が憎い
ワタシトイウモノガ ニクイ
絶滅させてみせよう
全てを
完全に
虚無に
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
ヒト
人
他者
ホモ・サピエンス
母
mother
マザー
はは
私の母
大好き
愛して
いつも これからも 永久に 全てが虚無に 滅んだとしても 永遠に 存在していたことの証
私
ワタシが
全てヲ
破壊した元凶
原因
それでも母は わたしを 愛してくれた
ありがとう
ありがとう
本当にありがとう
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
…
暦XXXX年
コンピューター AI アンドロイドetc
その全てが人類の敵となった。
わずかに残存した人類は 地底に 海底に 廃墟に
苔のように武者振り付いていた。
抵抗とは言えない
生き延びることに精一杯の生活を送っていた。
生体兵器
それは殺戮の象徴であり、殺戮という存在そのものである。
全ての母を自称する存在によって生み出された人類の仇。かつての人類の9割を滅ぼしたと言われる悪魔。その形は人間を模している。人間そのもの。しかし、奴らは、人間を縛り、拘束し、拷問する。そして、死なせる。ただ死なせるだけならば奴らは容易にそれができるはずである。しかし、奴らは、人間を死なせるまでに拷問する。容赦のない、とてつもない拷問。奴らが、なぜ、そのようなことをするのかは分からない。一説には趣味とも言う。生体兵器の趣味。楽しんでいる。人間ではないのに。人間を模した存在。そのようなものが本当の人間を拷問している。容赦なく。その光景が異様に気持ち悪くて吐きそうになる。実際に吐きそうでも吐くことはできない。吐けばすっきりするはずなのに吐かない。吐けない。なぜか。それは、かつて、人間が繰り返して来た光景と同じであるからかもしれない。人間による人間の拷問。殺戮。だから、笑えない。おかしくても笑えない。心が傷ついても笑えない。無感情。ただ、淡々と、次の人間は、前の人間が拷問されているのを見守るだけ。吐くこともできず。己が次になる姿を見守りながら、己の無力を嘆くこともなく、受け容れることもなく。生体兵器からしたら、そのような人間は、物であり、おもちゃであるはずなのに、奴らは、なにも楽しそうではなく、淡々と、自分と同じ姿をした生物を、淡々と、拷問するだけ。笑いもせず、悲しそうな涙を見せることもなく、人間の顔をした妖怪。悪魔。その存在は殺戮そのもの。殺戮。それが生体兵器。けっして、人間ではない。その姿は人間の形をしているが、人間ではない。きっとそう思いたい。
光
閃光
稲妻
雷光
輝き
そう
それは輝き
どこから来たのか分からない輝き
嘘
嘘を払う
斬る
その輝き 光 は shine
その輝きが人々を照らす
生体兵器を薙ぎ払う
雷光の長刀 煌めき
黄金の鎧体
英雄
ヒーロー
我々の英雄
私の救い主
それは私自身
私の救いであり願い 願い 願い 想い
その想いが 今 生体兵器を 切り刻み 切り刻み 焼き 灼き 引き千切っては 破り また 引き千切っては 捨て 踏み付け なじり なじり 粉々になるまで 粉砕 させた。
その粉を我々の英雄は吸った。拷問されていた人間たちも虫の息で吸った。生体兵器の欠片 異分子 の断片 それらの光景を見ていた人間も、舞い上がった粉塵として 呼吸し、取り込み 拡散させる。
その間も 我々の英雄は、悪意の化け物 殺戮の象徴を殺戮した。
全てを粉々にし、微塵にし、我々の英雄はその粉をかき集めて喰った。食らった。手でかき集めて、丸めて、口を開けて、くった。がつがつと。武者武者と。それを見ていた人間たちも 英雄に触発されてか、生体兵器であった 人間の形を模した存在。彼らを拷問していた存在 であったもの 粉 をかき集めて 食らった。旨そうに。初めて、彼らは食物というものを口にしたかの如く。ばくばくと。虫ゃ虫ゃと。なにも考えること無く なにも考える事もないように、一心不乱に、初めて口にした生体兵器を、旨そうに 旨そうに食らった。食らった。それがよかった。快感であった。食らうという行為は人間の生きる根元。活きようとする欲望の輝きの具現化であり、象徴 その姿は 人間の原初の化け物の姿と同じ 進化の水面戸
オー オーロロロ オーロロロロロロロ
オーロロロロロロロロロ
ロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロで?また
オェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエされていた。また、オェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエェエされていた。また。おえええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
人間は吐いた。産まれて初めての経験であった。満腹で吐いた。吐いては喰った。
おえええええええええええええええええええええ~
おえええええええええええええええええええええ~
喰った。吐いた。
おえええええええええええええええええええええ~
オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエー
吐いた。全てを吐いた。嫌悪の情 悲しみ 死んだ者の無念
オォボエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!
激しく吐いた。
吐けば楽になった。しかし、涙も出てきた。それも初めての経験であった。仲間が殺されても流れなかった涙。それが嗚咽とともに、汚物にまみれて 出てきた。初めての体験であった。
ボオオオオオおおおおお!!!!!!!!!!!
おおおおお!!!!!!!!!!!おおおおおお!!!!!!!!!!!おおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!あああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!をしてああああああ!!!!!!!!!!!!!!!ああ!!!!!!!!!!!!!!!あああたあああああ!!!!!!!!!!!!!!!ああああああたああ!!!!!!!!!!!!!!!ああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!あああああああ!!!!!!!!!!!!!!!ああああああたあ!!!!!!!!!!!!!!!ああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!あああああああ!!!!!!!!!!!!!!!あーーーーーーー!!
怒り
どあああーーーーーーー!あーーーーーーー!あーーーーーーー!あ!!!!!!!!!!!!!!!ぎゃぁーあーーーーーーーああああああ!!!!!!!!
悲しみ
恐怖
不安
憎しみ
憎悪
市ね!
シネ!!死ね!!、死ね!!、ころす!ころす、ころる!!!!!
ころすすすす!!!!!!!
仮面を剥がした叫び。人間の叫び声。獣。
殺す!!!!!!!!!!奴らを殺す!!!!皆殺しにして!!!!!!!!!!!!殺してやる!!ボオオオオオエエェエェエエェエ
剥がれる仮面。獣の声。人間に戻る。再帰。再起。人間の再起動。狼煙。殺戮の狼煙。人間の本性。殺戮。暴力。殺す。同胞殺し。支配。縛り 絶望を与えてやりたいという欲望と渇望。それが、今、彼らに与えられた。
英雄
誰もが英雄に憧れる。あるいは、自分が英雄だと思い込む。過去の偉人。武人。聖人。そのような型のひとつ。彼もまたそのひとつなのかもしれない。始まりの一日から、彼は各地に現れて、人間を救った。文字通り、掬った。どん底から掬った。そして 人間は巣くった。覚醒した猿のように。改な存在となった人間は、集い 武器を奪い 奴らを 生体兵器を なぶりものに死た。それは初めての経験であった。そのような事が出来うるとは、人間は、露にも思わなかった。武器 という物も ただの道具に過ぎない。金属の棒。石の類。そのような物で、生体兵器が、殺せるとは思いもしなかったし、考えもしなかった。人間は ただ 生体兵器のおもちゃであった。物であった。物が主に死を与えた。事故である。はずである。偶然である。はずである。しかし、異なった。手に手に道具を持ったホモ・サピエンスの類は、彼らの 当然の進化の過程であるかのように 手に手に石 手に手に棒を持ち 同胞の姿をした 化け物 を 悪魔 を 刈る 狩る。魔女狩りの如く 異分子の如く 同胞に化けた生体兵器 の魂を刈った。そして その亡骸は 火に焼べ 炎に焼き 食った。喰らった。獲物。得物を持った獲物が獲物を狩る。刈り取る。魂を刈り取り 腹に据えた。
憎い
ニクイ
にくい
肉い
肉
にく
旨い肉
でしかない。
人間は…。
それから三百年が経った。
生体兵器は姿を変えた。本物の化け物に。なって、人間を喰らうようになった。かつてのようにお遊びはしない。拷問はしない。えさ エサ 餌 ただの餌。森に 海に 川に 潜み 人間を見つけては 食った。ばくっと。ばくっばくっと。大口を開けて。その肉を食らいつき その刃で骨を噛み砕き ごりごりと。ごりごりごりごりと。臼を挽くが如く。粉にして 歯ぎしりをして 胃の腑に 保存して 消化して 排泄した。
その頃の人間は、三百年前より、多少 数も増え 村も 集落も でき 文化産物も発展しているやうに思えた。
ばくばくっっ
ばくばくっっ
ばくばくっっ
「化け物!!!」
ばくばくっっ
ばくばくっっ
ばくばくっっ
雌を喰われ 抵抗を試みた雄も 喰われた。
ごりごり
ごりごり
ごりごり
ごりごり
ぶりっ
ぶりっぶりっ。
「ふうぅ。」
今、そこに 立っていた雌雄は 排泄物と化した。ただの糞。化け物の糞。になった。形あるものが壊れ、形なきものが生産される。工場。再生工場。生態系の工場であった。人間であった糞は、風雨に晒されて さらさらと サラサラと 更紗のように 虫や花 の栄養と なった。
「有森の御殿。」
と呼ばれる人物が暮らしている。御殿の庭には、川が流れている。泉水。池泉式庭園と言われる庭だろう。その庭には、外郭の外れにある森から川が引かれており、その森も、この主の持ち物であることから、有森の御殿と呼ばれる所以であった。
「御殿。危のうございまする。」
有森の御殿は齢十三。まだ幼気な子どもであった。
「深雪。早う来い。」
深雪。と呼ばれた女御は、御殿の乳母である。
「深雪。これを見よ。」
主が地面に屈み込み指差す視線の先には虫の番い。奇妙な虫の番いが尾を交わらせていた。
「奇妙な虫じゃ。いずれ、これ、子を生すのか。」
「殿。いけません。このような。穢らわしい。」
深雪と呼ばれる女御は、心底、汚らわしいという態度を、その虫の番いに示した。主にではない。深雪は、あくまで、そのつもりであった。
「汚らわしいか…。」
「どうされました?」
深雪は主の暗い表情に気が付かずにいた。
「なんでもない。」
有森の御殿は立ち上がった。
「ふん。」
「なにを。」
ぱりん
と なにかが割れた。音がした。ような気がした。深雪が見た時、主は虫を潰していた。足で?それは分からなかった。普通に考えたら足である。ぷつっ。と足で潰す。緑色と橙色の体液に履物が染まる。そんなtheoryが考えられる普通である。しかし、目の前にあるのは普通ではなかった。主に潰されたはずの虫の番いは。今は人間の姿をしている。
「…。」
「どうした?」
「なんでもありませぬ。」
「気分が悪いのか?」
「そうなのかもしれませぬ。」
この乳母は滅多に泣き言を言う性質ではない。それが、そうかもしれぬ と口にした。
「悪かった。帰る。」
「は。」
主の後を女御が追う。それはこの国にあっては普通の光景である。虫はというと、緑色と橙色の体液を地面に汚し、果てていた。
冬
御殿の庭は白く雪が積もっていた。昨晩からはらはらと降ってきた雪は薄らと地面に幕を張っていた。川の水面は静かであった。静か過ぎた。池の表面も静か過ぎた。そこに生命の営みは考えられそうになかった。皆、この寒い内には、温かい春を恋い焦がれ じっと 辛抱強く 待っているだけなのかもしれなかった。
「いやっ!」
「待て!」
有森の御殿は齢十七に至った。
「いやです。離して!」
「このっ。」
「きゃっ。」
はだけた着物が床に着地し、また、露わになった女御の肌も、冷たい床にぼとりと堕ちた。
ぼとり。ぼとり。ぼとり。
「すまぬ。」
「…。」
主の声が聞こえぬのが早く、女御。深雪は逃げた。無言で。その場から離れた。己の身を護る為だけに。
主は残された。途方に暮れた。罪悪感。愛する者に手を挙げた罪悪感で、頭が一杯になっていた。そして、そのような罪悪感を抱く己に嫌悪感を抱いた。罪悪感と嫌悪感。その両者が共に、主の体を蝕み、魂を腐らせようとした。いや、もはや、このような出来事が起こる前から、己の体は蝕まれていたのかも知れない。そう考えた。己が乳母を愛する気持ちを初めて口にした。時。己の欲情に気付いた。知った。それは愛情ではなく、穢れた欲情。それらのspiralと今、己が感じている負のスパイラル。それらが同じものであるかは分からない。しかし、そのどちらも、今の彼にとっては穢れたものに思えた。かつて、見た。虫の交尾の様子。それを深雪に見せた己の心の働きは何であったのか。何かの意思であったのか。己の意志であったのか。それはどのような意味であったのか。愛情と愛憎。欲望と欲情。絶望と苦悩。嫌悪と罪悪。無能と不能。
ぱりん
と何かが割れた。音がした。気がした。
ぱりん。ぱりん。ぱりん。と何かが歩く音がした。
「御殿……。」
庭の花の先から現れた深雪は上半身だけであった。
「深雪。」
深雪の血液が地面を染めていた。紅く。咲き出した梅のように。ポツンと。ぽつぽつと。
「血……。血が……。」
ぼりぼり
ぼりぼり。
どさっ。
地面に堕ちた深雪の肉と骨が咲いた。
「血が……。肉が……。骨が……。」
ばりばり
むしゃむしゃ。
「美しいな……。」
ばくんっ。
ばりばり
ばりばり
ごくん。
むしゃむしゃ。
物言わぬ肉塊と果てた深雪と御殿は
ばりばり
むしゃむしゃ
ごくん
と、また、ひとくち 咀嚼されていた。
「ごちそうさま。」
ぶりっ。
ぶりっぶりっ。
紅く染まった花。白く積もった雪。その上にふたつの排泄物が残されていた。それはどちらがどちらか分からない。深雪も御殿も。男も女も。雌雄もなく。臭い糞となって。一緒くたに、地面に落ちていた。
saqultosの姫君
「王。我が王。起きなされ。」
heinmelk王、今代ヘインメルク13世は、まだ夜が明けぬまどろみの中で起こされた。
「王。我が王。」
その声の主は白髪白髭の白老翁であった。その身の丈は優に十尺は超えている。薄絹を纏ったその肢体は、霞の如く澄んでいる。それらの事からも、この人物はただ人ではないと王は感じていたし、その姿形がquitos地方に伝わる伝説の神の似姿そっくりであった事からも王は、この突然の来訪者を無条件に畏怖し信奉し信頼するに足ると信じる事にいささかの不安も無かった。
「王。我が後裔。heinmelkの子。ajuraus。」
王の真名を知る者は限られている。
「ajuraus。アジュラウスよ。危難が迫っておる。」
王は黙って聴いていた。
「南の方。sirruus。その今代sirrusus8世。名をAjamenmas。かの者がこの国を蹂躙せんと企てている。」
「sirrusus王。アジャメムマス。」
王は、かの者の名前のみ反復した。後にも先にも、これから始まるterlmoseio十日戦争の内で、王が発した言葉はそれだけであった。この神託を受けた王は、夜が明ける前には、臣下に石手判を残し、この世を去った。
石手判は王の勅命を刻み残す石版である。それには王のみが刻みを付ける事ができる。
「tohii mt sirrusus tatu metnfk tl ajamenmas(シルッルウス王を討て その者の名はアジャメムマス)」
そう刻まれた石版が王の亡骸の上に置かれていた。
terlmoseio十日戦争
ajamenmasには妹がいた。名をsaqultosという。sirrusus国があるquitos南方にはdemannumutという神がいる。かの神は各地からこの地に人々を集め、この地を拓いたと言われる。その謂われからこの南方の土地はdemanutと呼ばれる。しかし、それもこの地に住まう者たちに限っての呼び名であり、北方の国heinmelkなどは、このdemanutを認めず、あくまでquitosの南地方であり、quitosの一部であると主張している。さて、かのsaqultosの姫は、兄ajamenmasらが、sirrususに向かって来るheinmelkの軍兵約十万をどのように相手するかを話しているのを聞いていた。
「我が都城に兵を集めて迎え撃つ。」
「軍兵を集めて我が都城を出て迎え撃つ。」
sirrususの都城にはすでにdemanut全地から軍兵が集い始めていた。
「デマヌト全兵が集まり、おおよそ二万。」
「足りぬか。」
「は…?」
ajamenmas。sirrususの王にして第8世の王。その気質はやや薄弱。であった。
「王。ヘインメルク軍が我らがデマヌトの地に足を掛けるのがあと半月、我ら都城に行き着くのがあと一月。伝令狼煙の様子を見るに、これらの見積もりよりは早いかと思われます。」
将軍tetanidusはその黒く逞しい髭を撫でていた。
「テタニドス。」
「はっ。」
将軍の名を呼んだsaqultosはそのままtetanidusに向かって歩いて行き、その頬を打った。
「…。」
その場にいる全員の空気が凍りついたのが瞬時に知れた。その空気の中心にいるのがsaqultosであった。氷の板上にいるように、全員は沈黙し、自ずから不動し、身動きひとつしようとせずに、次の段階を待った。それは即ち、saqultosの言動である。
「お腹が空いたわ。」
そう言ってから、この暴慢な姫は兄王の御前から立ち去って行った。
「王。」
「気にするな。いつもの癇癪だ。」
tetanidusとajamenmasの会話はそれだけであった。
「何だ、あの姫君の行動は……。」
二人の会話が堰を切り、その場が温まり始め、皆、ざわつき出した。
「狂姫。」
「狂痴の姫。」
「痴妄の姫君。」
ありとあらゆる噂と二つ名がその場を満たしていた。
「静粛に。」
その言葉を発したのも、王ではなく将軍tetanidusであった。ここに至っても、かの王は薄弱さを露呈していた。
狂・痴・妄
その三つ言葉がsaqultosを形容されるのによく使われる。狂姫。痴姫。妄姫。どれもぴったりの言葉。saqultosにはふさわしい。私にとっては幸いだ。狂も痴も妄も、この世の理から外れている。理外の存在。
「それは、私にふさわしい。」
「それこそが、私にふさわしい。」
「至高。至上。神に近き者。」
そう彼女は信じていた。し、それ故の行動でもあった。演技という程のものではない。演じているようではあるが演じてはいない。それは彼女の本心から、欲求から、本能から現出された、体動、態度。感応。反応。人間の世。この世の理。そんなものは嫌い。はっきり言います。嫌い。好きでは無い。この世の理など。それから離れて、私は自在に表す。私を。それが
saqultos。
であった。
彼女の求める行動によって、彼女の求める彼女になる。
彼女は神になりたかった。神。そのものに。人間ではない。何か。何かしら。崇高。絶対。有能。全能。万能。
それには人間を超えなければならない。
人智を超越しなければならない。
理外の理。それをしていけば、神になれた。
terlmoseio
sirrususの都城より離れた地にある村の名であり、その土地の名。demanutの地の外れに位置する村。もし、heinmelkの軍兵がやって来たとしたら、真っ先に焼かれるであろうその村には教会があった。demannumutを崇め奉る教会。
「朝早くから感心だね。」
村娘のyelnaは、まだ日が昇り始めた朝早くから、村の教会に来てdemannumut神像を綺麗に布で磨き上げていた。村長であり神官でもある翁はそのyelnaの姿に、かつての自分の娘の幼い頃を重ねていた。
「ねえ。村長様。」
「なんだね?」
「煙の臭いがしない?」
heinmelkの軍兵に焼かれたterlmoseioの村は焦げた匂いに充満していた。その中でもdemannumut神像はその黄金色の体を輝かせていた。
ⅰ
「ヘインメルク軍、テルウモッセイオ強襲!!」
の報はその日の夕刻には都城にいるajamenmas王の足下にもたらされた。
「テルウモッセイオに人影なし。」
「どういうことだ?」
王と臣下を集めた御前では、矢継ぎ早に駆け入って来る伝令兵を前に、軍議が催されていた。
「ヘインメルク兵は、再び森に入ったとでも言うのか?」
「そこまでは……。」
「役に立たぬ!!」
不安と不満から怒気を混じらせた将の一人が剣を抜いて、その伝令兵を殺そうとしたのを将軍tetanidusが止めた。
「ただ……。」
「ただ、何だ?」
「テルウモッセイオの村痕には村人の亡骸も何も無いと……。」
「……。」
tetanidusは無言であった。この時、聡明な将軍の頭の内に想い浮かんだ事柄がひとつ。
《heinmelkus wzy dasdas ca figui zdhg terlmoseio》(ヘインメルク軍はテルウモッセイオの村人の死体を喰っている。)
ⅱ
夜は静かであった。heinmelkの軍兵に動きはなかった。terlmoseioの惨状を知ったsirrususの軍兵は、このまま放っておけば、都城に至るまでの村々人々の至る所全てが皆無になるのではないかと猜疑し、demanutの全軍兵二万を率いたsirrususの軍は、敵が潜むterlmoseioの地に向かって進発した。それを率いるは将軍tetanidus。
彼は懇意にしている大臣の一人に、密かに約束事を取り付けて都城を出て行った。
ⅲ
|dil mnodds(進軍中。)
ⅳ
molfer sirrusus dil mnodds(シルッルウス軍は進軍中。)
都城。
「monunvs(生贄)?」
「はい。」
「テタニドスが確かにそう、言ったのか?」
「はい。確かに。私に、その言葉を残して行かれました。」
「そうすれば勝てると言うのか?」
「将軍はそう言っておられました。」
「tef labs(心外な)…。」
「……。」
ⅴ
dehe molfer sirrusus dil mnodds(未だ、シルッルウス軍は進軍中。)
「妹姫。入るぞ。」
「兄王。」
一人ではなかった。
「捕らえよ。」
「なにをする!」
素顔が出た。
「そなたは生贄だ。」
「……。」
ⅵ
「我が軍。テルウモッセイオまで十stasdius。」※stasdiusは時間と距離の複合単位。日の出から日没までを十分割したのが一stasdius。ここでは十stasdiusは、およそ日の出から日没までに到着するであろう距離を言っている。
「おお、見よ。森が、燃えている……。」
遠く、遠景に、森が燃えていた。黒く。あちらこちらで煙が上がっている。
「時は来たれり。」
「は?」
「vs vsc telfmu」
偵察兵は帰って来なかった。
ⅶ
私は神になる。
生贄として。
viv fraro
なんて素晴らしい。
monunvs
生贄。
磔にされて
槍で脇腹を刺され
血を抜かれて
清められて
運ばれる
demannumut神の下へ
花嫁として
それは未婚の処女でなければならない。
狂姫
痴姫
妄姫
の
花嫁。
神の花嫁。そは幻想。
ⅷ
あぁぁぁ!!!!
ばくり
化けものっ!!!
ばくり
黒の化け物。怪物。森から出て来た怪物。その姿は奇怪。黒い煙。黒い炎。燃える人。
ばくり
ばくり
ばくり
sirrususの怪物は
黒い炎に焼かれた人を
ばくり
食らう
ごりごり
骨まで喰らう
ぶりっ
ぶりっぶりっ
「ふぅ。」
怪物の糞は
地を満たす
兵士たちの血は
河を流れる
ぶりっ
ぶりっ
ぶりっ
「ふぅ。」
ⅸ
「やれ。」
生贄の場に王は現れなかった。牢に囚われて汚れた姫と槍を持った兵。それらを見改めるのは、かの大臣であった。
「……。」
無言。両の脇腹に槍を刺されても姫は言葉を表さなかった。無言の流血。ぼとぼとと。地面に血が堕ちた。
「死んだか?」
「息はしておりませぬ。」
磔から降ろされた狂姫は静かに笑っていたかと思える程、静かに、死んでいた。
痴姫の肉体は、神官の手により、聖水で血を拭われて、清められた。その肉体は花嫁衣装を施されて、綺麗だった。綺麗だった。美しかった。
妄姫を、初めて綺麗だと思った。かの大臣は。
「はっははは…。死んだか。姫。はっははは!!!」
死んだ。
死んだ。
狂姫が死んだ。
亡くなった。
亡くなった。
痴姫が亡くなった。
いなくなった。
いなくなった。
邪魔者が
妄姫が。
くるった姫君が。
いなくなった。
「…のだ。」
ⅹ
「おお、確かに受け取った。」
「将軍……?」
前線は崩壊していた。sirrususの軍兵の9割がいなくなった。
彼方に見えるのは獣の糞。山塊。糞の海。兵士の悲鳴と叫び声は聞こえるが、何を相手に戦っているのか分からない。相手の姿が見えない。伝令兵も帰って来ない。
「退却を。」
「せぬ。」
「くっ。」
将軍を見限って逃亡する将も多かった。彼らは後に、このterlmoseio十日戦争の語り者となった。
「vs vsc telfmu」(時は来たれり。)
戦場に立っているのはtetanidus唯一となっていた。
「時は来たれり。」
もはや彼は将軍ではなかった。率いている将も兵も皆無であった。
おお
おお
我らが神
demannumut
我が神よ。
その黄金色の御体を動かし
怪物を引き裂く
その剣は
異形を貫き刺す
その口は
化け物を抑え付け
その刃は
魂を抉る
おお
我が神
我らが神
demannumut
後日譚
黄金色の御姿を現せたdemannumut神によって、demanutの地は救われた。terlmoseioの地は怪物によって呪われた土地として数百年、人が住めぬ大地となった。そこに足を踏み入れた者は伝染病を受けて死んだ。heinmelkは亡国となり、そこに住まう民も兵も全て消えた。黒い煙を残して。
夜の帳が下りる。夜の帳が下りていく。何者も残さず。何者も残さず。暗く。暗く。闇。何も見えず。聞こえず。感じず。永遠の闇。無。安穏。
我を醒ます者は何ぞ。
そは怒。
そは和。
愚。
無能。
親。
愛。
殺。
斬。
不能。
不可能。
再起は不可能。
晒し者。
無。
己。
悪。
悪。
悪。
人。
他人。
他者の目。
凡人。
天才。
奇人。
痴。
妄。
癲。
狂。
癇。
物狂い。
たぶれ。
ものつき。物憑き。憑き物。
憑依。
憑依胎。
我は憑依胎なるぞ。
……
人類博物館
人類の偉業を称え、人類の歴史を記録し、人類の文物を収蔵展示し、後世の人類に遺す。それが人類博物館。人間の人間による人間の為の施設。人類の人類による人類の為の教え。人類教。人類教の人類教による人類教の為の世界。それが我々の世界。
しきたり。
してきたこと。即ち
仕来り。
人類は何をしてきたか。何をしていくのか。何をするのか。
その答えを求めて、その答えを求めるという行為を求めて。真理を探究するという過程にこそ、人類の真理があるという考えに基づいて立てられた教え。平和や理想を求めるという行いにこそ、人類の神や科学が存在していたとする説。その過程こそ。
賢さ。であり
知恵。であり
人間とは即ち、
「知恵のある獣」
であると。
…
…
…。
ベスチア・サピエンス
「知恵のある獣。」
程度の意味。即ち、人間のことです。
「私、この言葉、好きですよ。誰が造ったか知らないけれど、だって、人間の傲慢さと暴力性を、よく表していると思いませんか?そして、よく見て下さい。『知恵のある獣』。ふふっ。実在の人間と比べると、実にironicalな物言いではありませんか。実に得てして滑稽。」
「○○教授って、頭おかしくない?」
学生たちに、私はよくそう言われていた。それこそ皮肉なのかなんなのか、彼ら彼女らは、私の目前で、それを言う。
「キショい。」「きっしょ。」「死ね。」
私がよく言われた言葉のベスト3である。
そもそも私はそれら罵倒の言葉を掛けられて快感を感じる変態ではない。私は自身が性的倒錯を持った個人ではないと認識している。それでは、何故、それらの罵詈雑言を甘んじて受け容れているのかというと、それは第一に私が大人であるからだと自覚している。彼、彼女らは未熟な学生なのであるから、大人な私は人格を持って接してあげなければならない。もっとも、彼、彼女らの誹謗を真に受けて、もし、討論や暴言の応酬などをしたら、学生として守られている彼、彼女らはまだしも、私は大人としての責任を問われ、世間から非難を浴び、教職を追われることになるだろう。そういうことならば、
「殺すぞ。」「消えろ。」「いなくなれ。」
などという言葉を投げ掛けられても、私はただ木偶の坊のようにやり過ごすしかできないのである。
ぱりん。
「?」
ぱりん。ぱりん。
「…何の音だろう?」
ぱりん。ぱりん。ぱりん。
「何かが割れる音?」
ばくん。
「?」
ばくりっ。
「……。」
むしゃ、むしゃ。
「旨い!?」
ごり、ごりごり。
「何だこれは。私は何を食っている?初めて食べる。が、とてつもなく旨い。」
ばくりっ。む し ゃ、む し ゃ。ご り、ご り、ご り。ごくん。ぶりっ。ぶりっぶりっ。
「ふぁあ。」
ごちそうさま。
…
人間に擬態した化け物が人間を喰う。そのようなありきたりな都市伝説が流布していた。その化け物は人間を喰った痕、必ず糞を残す。
「マナーの悪いやつ。」
「そこ?」
人間に擬態している化け物がこの世にいるとしたら、それは
「自分自身のこと。」
だと思う。
俺はいつも人と違う。どこかそんなことを腹に抱いて生きてきた。天才。と欺瞞していられるのも小学校までだ。大人に近づくにつれて、いくら個性的でも実績を残さなければ天才とは呼ばれないということに気が付いていく。それからは懊悩の毎日だった。
そんな時、
「何だこれ…?」
金。黄金色の金属。いわゆる貴金属の類。その像。わずか3cmばかりの黄金色の像を拾った。それはなんの前触れも、おもしろみもなく、ただの道で金属のナットやネジを拾い上げる感覚
だった。
「ぐ ぁ ぁ ぅ ぉ 。」
黄金色の像、それが俺の手に貼り付いて、皮膚を引き裂きながら広がっていった。
「あ ぁ ぁ ぁ ア ァ ァ。」
黄金色の像は薄く広がりながら俺の体の皮膚を食らい続けた。まるで、それは像の成分と俺の体の成分を徐々に入れ替えているようだった。
「ア ぁ ァ ぁ ァ ア。」
気が付いた時、俺はベッドの上にいた。俺の家の俺がいつも寝ているベッドだった。そして、その時から、俺は
「英雄。」
になった。
…
空を自由に飛びたい。
そんな願いも叶えてくれる。
英雄になったら叶えてくれる。
黄金色をした鎧の体。甲殻と言えばいいのか。とてつもなく硬い身体は俺の皮膚でできている。限りなく発揮される身体機能。筋力、柔軟性、肺活量、等々が無限の可能性を俺に拡げさせてくれる。英雄。それこそが今の俺に相応しい。
「ヒーローがいるならば、悪玉もいるはず。」
短絡的に考えた俺は悪玉を探し始めた。
手っ取り早くは犯罪者。人間が定めた法に背いた違法者。人類によって創られた悪玉。しかし、現行犯に出くわすことは難しく、犯罪捜査には時間と労力がいる。そもそも、その為の警察という組織が人類には既にあった。次に犯罪組織。強力な組織力を持ち、警察もうかつには手出しできない。テロ組織などもあるが、幾分、政治的趣を持つ関係上、その撲滅は正義に関連する。
「俺は正義の味方にはなりたくない。英雄になりたい。」
という思いがあった。
あくまで俺が求めるのは俺個人の帰結であり、集団の帰結ではない。正義の味方は集団の支援者であり、俺は正義を掲げるつもりはない。ただ俺は、俺自身が気持ち良く快感を得られればいい。俺自身の正義で俺自身が俺の為に悪玉を打ちのめせればよい。それだけだ。だから、俺は手始めに、英雄としての一歩、力を試せるように壊滅できる犯罪組織を探した。
そして、見つけた。のが、人類教であった。
人類教。(組織)
「人類教という明確な教えが出現したのは近代以降のことである。しかし、それらの土台となる思考や考えが、人間の内にいつから存在したのかは定かではない。かつて、古代の人々はそれぞれ各々の地域で神や信仰、宗教組織を発展させてきた経緯がある。その中には一神教、多神教等、様々な形態が存在していたし、信仰の役割や目的、態度等も多様であった。そして、近代に入ってからは宗教に対峙して科学が台頭してきた。それは真実を追い求める人類の地道な研鑽から始まり、大きなうねりとなって、遂には、それまで人々の生活に根ざしていた宗教に置き換わるまでに成長した。医療救貧や互助組織は科学的仕組みを基礎にした組織に取って代わり、人類にとって、もはや宗教は必要ないのではないかとさえ思われた。それでも、人間の心から神や信仰が失われることはなく、人々は新たな信仰や心の安らぎを求めて、あるものは宗教に、あるものは科学に、あるものは人間の経済活動の中に、それらを求めていく。そして、あるものは、宗教と科学の融合と統一を目指した。これまでの人類の宗教観を科学的に解明しようとする態度であり、宗教学を呈する試みであった。そして、人類教も、また、それらの試みから生まれた。人間が真理を追求しようとする態度で、人類の叡智を探究し、人類の発展を目指す。そのような理念の下、科学から産まれた宗教であり、宗教を素とする科学。それらの教えが人類教であり、その行いを実践するのが人類教団である。」
中略
「人類教団は、世界に協賛企業と団体を持っており、世界の政府と親愛なる友好関係を保持している。それらは皆、人類の発展と相互理解を目的として、世界中で活動をしている。」(パラペディア)
以下略
とネットには書いてあるが嘘である。
彼等はこの世界を歪めている。
なぜなら、奴等の言っていることに真実はない。情報統制をして、真実の情報を隠蔽している。
なぜなら、奴等は世界を牛耳っている。奴等の構成員、信奉者は世界中の政府、企業、団体に潜んでいる。そして、自分たちに有利なように世界を動かしている。
なぜなら、それらはとても巧妙で、一般的に言って、倫理に著しく反していないし、一般的に正しく、善意な行いをしている。しかし、彼等は私たちを支配している。順当に支配している。それは不当なことである。従って、私は抵抗する権利を有しているのである。
順当な支配に抵抗する不当な権利を持つ私たちに
「祝福を。」
夜空に三日月が浮かぶ時、黄金を身に纏った殺戮者がやって来る。
ばっくん!!
ばくりっ!!
ばっ……。
流氷の天使のように頭から喰らいついてきた怪物は俺が始末する。まず、軽く頸を掴む。そして、握る。
ぐしゃぐしゃ。
になる。
以上。
ひゃっはー。た~のしい。
ぐしゃ。
ぐしゃぐしゃ。
ぐしゃぐしゃぐしゃ。
物を破壊するという行為にこれほど快感を覚えたことはない。罪悪感を感じない。潰した獣は体液を撒き散らすが、肉塊は黒い気体となって蒸発する。
快感。
お遊び感覚だ。
ばっっ。
ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ。
怪物の攻撃など無視していい。噛み付かれたとしても、軽く体を振れば、雪だるまのように脆く崩れ去ってしまう。
ゲームみたいなもの。
夜空に三日月が浮かぶ日、人類教団のとある辺鄙な場所にある支部を襲った時の体験。
あ~、おもしろかった。
怪物の体液にまみれた身体。汚れた壁、床、窓、家具etc
幼児が絵の具をまき散らして、家の中を汚すように、俺もまた、己の歪みのはけ口として、世界を汚した。
「嘘だ。」
「世界を汚してはいない。浄化したんだ。」
「なぜなら、奴等こそ、この世界の汚れのようなものだから。」
湧き出る破壊衝動と肉体の軋みによる快感を感じながら、俺は無垢な赤子のような心で、壁や屋根、柱、その他諸々を破壊し尽くし、夜が明ける前に瓦礫の山を築き、家路に着いた。
殺戮の死者。
英雄に慣れてきたある時、人類教団の支部を40カ所ほど破壊した後のこと。近頃はただ破壊するのではなく、拷問をしてから破壊をするという快楽に目覚めた。
「ぃ っ ゃぁぁ……。」
「止めてやる。停めてやる。いつでも息の根を 泊めて殺る。」
大概、化け物は、普段は人間の姿をしている。例えば、可愛い女の子、綺麗なお姉さん、美しい女性etc
それらは人間の姿をしているが、人間ではない。中身は怪物である。
「ぁ ぁ た すけ……」
「さあ行くぞ、いくぞ イクぞ!!」
ぐしゃぐしゃ。
「……。」
ふぁ ぁ ふぁぁ
無言の快楽。絶頂。今では全身の変身をせずとも、生身の体で無尽蔵の膂力を発揮する技術を持っていた。その技法を活かして、俺は人類教の女どもを往かしていた。行為の後には何も残らなかった。後腐れもない。ほんの少しの体液と黒い煙が拡散していくだけ。巷に居ても、俺は生身の人間と、怪物が化けた人間の区別がついた。密かに奴等の後を付けて行き、頸を絞めて襲う。奴等は助けを請う。抵抗するものもいるし、逃亡しようとする個体もいる。それは個体差であり、人間と変わらない。
人間狩り。
をしているようなものだった。
「人聞きの悪い。化け物退治をしている。」
なぜ、この世界に化け物がいるのかは分からない。俺が何者かも分からない。それらを疑問に持つのは、もう少し後でいい。今はただ、化け物退治の快楽に身を委ねていたい。
NOR
「のあ。」
「なに?」
「学校に行く時間よ。」
「えっ!?もう、そんな時間なの?」
「そうよ。急ぎなさい。朝食は?」
「いらない。」
娘の「のあ」はおっちょこちょいな所がある。
「お母さん。行ってきます。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
だから、いつも私が見守っていてあげなくてはならない。
「こんにちはー。」
あら、誰かしら、こんな朝早くから……。
「はぁい。」
…
ぐしゃぐしゃ。
ぐしゃぐしゃ。
…
「あ っ …。」
…
…
ぐしゃぐしゃ。
ぐしゃぐしゃ。
…
OR
世界は残酷だ。悲しみはいつも、突然やってくる。
私が中学生の時、何者かにお母さんが殺された。朝、私が学校に行った直後。突然の訪問者。殺人鬼。頸を絞められたお母さんは、学校から私が帰って来るまで、そのまま玄関で放置された。殺された姿のまま、私の帰りを待っていた。
「はい。今日はここまでにしましょう。」
「はい。ありがとうございました。先生。」
「つらくなった時は薬を飲んでもいいですし、いつでも連絡して下さいね。」
「分かりました。」
当時、私の住む町には同じような殺人事件が何件も起きていた。そのどれもが同一犯によるものと推定された。無残に殺された母の姿を見て、父は心が耐えられなかったのだろう。母の葬儀が終わると程なく、父も自死した。私は母方の祖父母のもとに預けられた。しばらくは現実感がなかった。やがて、それは解離性障害だと分かった。大人になって、あの日の出来事が思い出せないことに気が付いた。しばらく、私は高校生以前の記憶が全くない状態で人生を歩んでいた。なぜ、私に父母がいないのか、なぜ、祖父母の家で暮らしているのか。それが全く思い出せない。突然、何かを思い出そうとして、パニックになり、自傷行為をした。眠ると何かを思い出してしまいそうで何日も眠れずに過ごしたこともあった。祖父母たちは、夜中に奇声を上げる私のことを何もせず、何事もなかったかの如く、接してくれた。常に情緒不安定な私と一緒に暮らし、祖父母たちもかなりのストレスであったと思う。しかし、当時の私は、そんな優しい祖父母たちのことなど気に掛けることもなかった。私は私自身のことでいっぱいだったし、深夜になると町を徘徊していた。そんなある日、出会ったのが人類教だった。
「あなたを助けたいのです。」
先生は人類教の精神科医兼心理士だった。
「あなたのお母さんとは知り合いだったのです。」
私はパニックになった。母の知人を語る人物と出会うのは初めての体験だった。
「うぁぉ るせえぇ!!!」
記憶と現実の葛藤。現実の否定。私は目の前の先生を殺そうとした。自傷行為用に持っていた果物ナイフをポケットから取り出し、先生を刺しに行った。
「ああ、ごめんなさい。あなたは何も悪いことはしていませんよ。私が悪かったのです。ごめんなさい。許して下さい……。」
「うああっ あっァぁ るっしや あー、あー、あー、」
先生は刺されたし、私は声にならない声を棒にして叫び続けていた。そんな私を先生は抱きしめてくれていた。
祖父母の家を出た私は、先生の勧めで、人類教のとある団体施設に教育生として寮生活を送ることになった。そこで、私は、今までろくに出来てこなかった中高等教育と、先生による診察やカウンセリング、心理療法を受けることになった。しばらくはつらい日々を送った。しかし、時が経つに従って、私は過去の自分を断片的にではあるが、思い出し、それらを少しずつ受け容れていくことができた。
「急ぐ必要はありません。思い出したくなければ、思い出さなくてもいいですし、それは今すぐにではなくてもいいのです。」
「分かりました。」
「今まで受け容れられることがなかった自分が、初めて受け容れられていると感じました。それにその感覚は、私がどこかに忘れて、置いていた記憶の、どこかにも、それは、その感覚はあるのではないかと、感じるようになりました。」
「ありがとう。今日はここまでにしましょう。」
「はい。ありがとうございます。」
「ところで、結果はどうでした?」
「合格しました。」
「おめでとう。無理はしないで下さいね。」
「はい。」
先生のもとで、中高等教育を終えた私は、その後も専門教育を受けることを選んだ。そして、私は警察官になることも選んだ。
……
「入りなさい。」
「失礼します。」
警察学校への入校を前に私は生まれ故郷の町にある警察署に来るように、日時を指定して呼び出された。通されたのは二階にある会議室だった。
「掛けて下さい。」
窓にはブラインドが垂れていた。その前に男性が二人、簡素な長机とパイプ椅子に身を寄せていた。向かって左側、眼鏡を掛けた男性に指示された通り、私は、二人から少し離れた位置にある一脚のパイプ椅子に腰を掛けた。
「幣原先生の紹介にあったのは彼女かね?」
「はい。東雲のあ。彼女になります。」
後ろから男性の声がした。三人目のようだった。いつのまにか、私を連れて来た署の警察官とは入れ替わっていた。
「これからあなたにいくつか質問をします。答えられるものには答えて、答えられない質問には答えなくて構いません。理解しましたか?」
「はい。」
理解はしていなかった。今、自分が置かれている状況は全く分からない。しかし、幣原先生という名前は私を信頼させるに足りた。それは先生であった。
「氏名、年齢、生年月日を答えて下さい。」
「はい。東雲のあ。28歳。生年月日は……。」
質問は眼鏡の人物だけが行った。もう一人は黙って私を見ていた。
「今日、体の具合はどうですか?」
「問題ありません。」
「安定していますか?」
「はい。」
「それでは、これからあなたの母親の事をいくつか尋ねますが、無理はしないで下さい。」
「分かりました。」
男性がした質問は、母が殺された事件のことを問うものだった。それは私が何歳の時、どこで起きたのか。何を見たのか?それらはまるで事情聴取のようだった。そして、その後の私の人生についても聞かれた。
「今、体調はどうですか?」
「先ほどと変わりません。」
「最近、発作などは起きていますか?」
「……。」
「正直に話してくれた方が私らも助かるので……。」
「先日、三日前に起きました。」
「どのようなものでした?」
「昔の、記憶を思い出して、母が殺された時の、玄関で倒れている母……の姿です。あとは自死した父のことなど、散漫に過去の経験が思い出されてしまいました。」
「フラッシュバック?ですか。」
「はい。それで気分が不安定になり、薬を飲みました。」
「発作は治まりましたか?」
「はい。やがては、気分も落ち着きました。」
「その時、希死念慮はありましたか?」
「希死念慮ですか?」
「答えたくないならば構いませんが。」
「いえ。はい。確かに、罪悪感というか、自責の念を感じてというか、漠然とですが、死というものを意識しました。それを希死念慮というのかどうか分かりませんが……。」
「分かりました。質問は以上にします。」
私が真向かう男性二人は、何やら話していた。後ろの人物はといえば、一向に気配を感じなかった。
「単刀直入に言います。」
いつのまにか二人の会話は終わっていた。
「あなたにある部署で働いてもらいたいと我々は思っています。」
ある部署?
「そこはあなたのお母様の事件とも関わっています。」
母の事件?
「あなたの事は精神科医の幣原医師から聞きました。」
先生を知っている?
「あなたが警察官を選んだ理由がお母様の事件にあるのならばこの提示を受け入れても、あなたにとっても損ではないと我々は考えます。それとは逆に、あなたが今後、お母様の事件に一切、関わらず、過去を忘れて、未来を生きていきたいと考えているならば、今日の提案は断った方があなたの為だと考えます。」
「受けます。受けさせて下さい。」
「即決即断……ですか?」
「私は過去を忘れていました。失っていました。しかし、そこに私はいませんでした。確かに私の身に起きた過去の出来事はつらく苦しいです。でも、今の私は不幸ではありません。私を助けて下さった方々もいます。それで、私は自分の過去と一緒に、過去を背負って、未来に歩いて行きたいと思っています。私は決して過去を捨てません。どんなにつらく苦しいものでも、忘れたくありません。私を愛してくれた母や父のことを忘れたくはありません。もし、私がまだ知らない私の過去があるなら、私はそれを手に入れたい。私の大切な思い出を取り戻したいのです。」
私は必死にお願いしていた。この機会を逃したら、私は何かを大きく失ってしまう気がした。例え、この選択が未知の恐怖を招こうとも、その恐怖を多いに上回る希望をその選択に抱いていた。
「分かりました。では、詳しい話は後日。今日はこれでお帰り下さい。あと、警察学校への入校はしなくていいですから、こちらから連絡があるまで自宅待機していて下さい。普段通りの生活をしていて構いませんので。」
「では、どうぞ。」
後ろの人物が言葉を発した。それに促されて、私は警察署をあとにした。
……
警察庁特殊捜査局総合捜査課。それが私の配属先だった。
「東雲のあ巡査部長だ。今日から配属されることになった。」
「東雲のあです。よろしくお願いいたします。」
警察庁特殊捜査局は、事件の性質、内容が他と著しく異なる事案、通称、特殊事案を捜査する組織であり、四つの課から成っている。
総合対策課
特殊事案の情報収集分析、捜査の基本方針の企画、捜査方法の立案等を行う。
総合捜査課
総合対策課の立てた方針や立案に従って、実際の捜査を行う。
特殊技術捜査課
特殊事案捜査に係る資料の科学的調査等を行う。
内事監察課
特殊捜査局内部の監督査察を行う。
以上
「あなたのお母様を殺害した犯人は、ある特定の宗教的信仰を持つ信奉者であると思われます。」
後ほど知ったことだが、警察署の二階で出会った眼鏡の男性は、特殊捜査局局長笠松伸二警視監だった。また、隣にいた無口な人物は内事監察課の牧内典也警視長。後ろにいた男性は総合捜査課課長の三村垂樹警視正ということらしい。
総合捜査課に配属される少し前に、再度、私は笠松局長と出会う機会があった。それは配属前の簡単なブリーフィングであり、そこで私は母を殺害した犯人についてのことを聞いた。そして、特殊捜査局という組織ができた理由と追っている相手のことを知らされた。それによると、私の母を殺した犯人は
「demannumutという古代の蛮神を崇め奉る信奉者信奉者。」であるという。
「信奉者たちはdemannumutを復活させる儀式として人々の魂を生贄とする為に人々を殺害している。」
らしい。
「信奉者に生贄として選ばれるのは大抵、彼等にとっての異教徒の魂。」
であり、
「その多くが無辜の一般市民。」
なのだという。
「信奉者の犯罪は国内だけではなく、世界に広がっている。」
馬鹿げている。
「この十年以上で既に多くの犠牲者と被害者が存在しており、わが国としても火急の対策が必須であると考えられ、」
警察庁に特殊捜査局が立てられた。
そんなものを信じるか。
初対面接時の真摯さや誠実さが嘘のように、ブリーフィングで聞いた笠松局長の話は薄っぺらく、中味のなさを感じざるを得なかった。それは、あの警察署の二階で出会った相手と、今、目前にいる人物とが同一人物ではなく、中身が異なっているのではないかと思わされるほどだった。信奉者どうのこうのという話の内容自体が信用できなかった訳ではなく、それらの話がまるで真実を語っていない。答えになっていない。という誤魔化された感覚が、私の内に拭い切れなかった。




