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瓦礫

「すべてが終わってしまう……」


ざわめきの中、古参の神官の一人が膝をついた。


「神殿がなくなれば、我々の立場は……」

「宝石の恵みは……」

「民は、本当に神殿なしで生きていけるのか……?」


彼らは嘆いた。

だが、ラファエルは何も言わなかった。ただ、冷ややかにその光景を見つめていた。


「我らは何のために生きてきたのだ……!」


「神殿のため、ですね」


ラファエルの声が響く。


「人のためではなく、神殿のために生きてきた結果が、これです」


神官長がラファエルを睨む。


「……貴様、それでも神官爵の血を引く者か」


ラファエルは微かに笑った。


「ええ、だからこそ。この茶番には、もう終わりを告げる」





神殿の周囲には、すでに怒号が渦巻いていた。


「この号外の内容は本当なのか!?」

「宝石の恵みはどうなるんだ!」

「神官爵は何をしている!」

「我々はどうやって生きていけばいいんだ!」


群衆が、神殿の門を叩く音が響く。


公国の人々は、長きにわたって 神殿に依存してきた。

病を癒やし、土地を豊かにし、作物の実りを助ける 宝石の恵み は、彼らにとって生活の基盤そのものだった。

それが、国民から強制的に取り上げていた恵の、おこぼれに過ぎなかったなんて。


「神官たちは、何を隠していたんだ!」

「やはり神殿は、我々を欺いていたのか!」


貴族たちも騒然と押しかけ、護衛騎士と衛兵が混乱を抑えようとするが、もはや制御できる状況ではない。外からは石が割れる音が響く。だんだん音が大きくなる。神殿が外部から物理的に破壊されているのだ。


扉が乱暴に開かれ、雪崩れ込む信者たちの叫びが衛兵による人の壁の向こうから響いた。


(何かが……おかしい……?)


ラファエルが感じた刹那、神殿内部でうろたえていた神官たちの悲鳴が響いた。


「宝石が……!」


神殿の奥で祭られていた宝石たちが、一斉に光を乱反射させ、異様な震えを始めた。

まるで、大地の底から何かがうねり、力の均衡を失っているかのように。


(神殿が、調律を失った……)


それまで、一定のリズムで流れていた地脈の力が、一気に乱れる。

空気が歪むような感覚。


そして——。


ドォンッ!!!


突然、神殿の柱が砕け、天井が崩落し始めた。

人々は逃げ惑い、瓦礫が落ちる。


捕らえられた神官長は、動くこともせず、反論もしない。

ただ、かすかに笑っていた。


「地脈は、もう……途絶えたのだ」


神官たちが次々に神殿の外へと逃げ出した。


「——逃げるなんてな」


ラファエルがつぶやいた。

壁が崩れ、明かりが落ちる。壊れていく。昔ヴァルターと歩いた中庭に瓦礫が降っていく。誓約を唱えた部屋、手紙を書いた机、全部こわれてのみこまれたらいい。


崩落していく神殿と諸共に崩壊してもいいと思った。

これが“次期神官爵”としての最後の仕事だと思ったから。


「俺たちが作り上げたものだろう。最後まで、見届けないと」

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