崩落
冬の寒風が、神殿の白い回廊を吹き抜けた。吹き溜まりに積もった雪が、誰も踏み入れぬまま凍りついている。
だが、今この神殿に流れるのは、冬の静寂ではない。決定的な終焉の気配だ。
「これ以上、隠し通すことはできませんよ」
暴かれた不正の証拠。
神官爵の名のもとに搾取され、貴族学院に捧げられた若き才能たち。ギルドに引き取られていった卒業生たち。
彼らは『宝石文化の発展』の名の下に、職人として半ば奴隷のように扱われていた。
「証拠なら、すべてここにあります」
ラファエルは静かに、手元の分厚い書簡を掲げた。
神官長が目を細める。
「それを渡せ」
「いいですよ。……写しでよろしければ」
神官長の指先が止まった。
「何?」
「原本は、既に提出済みです。これは、ただの写しに過ぎません」
一瞬、場が凍りつく。
「貴様……」
「私も考えなしではではありませんよ、神官長」
ラファエルは淡々とした口調で言った。
「あなたがこれを破り捨てても何も変わりません。もう既に、全ての証拠は公王の手に渡っています」
神官長は歯ぎしりしながらラファエルを睨みつけた。
「今まで育ててやった恩を仇で返すような真似を……」
ラファエルは微かに笑った。
「ええ、私はあなたのようにはなれなかった」
「どうするつもりだ!?」
噛み付くようなその問いに、ラファエルは静かに答えた。
「真実を、明らかにするだけです」
「事態はすでに収拾がつかんぞ」
神官長の低い声が響く。
「お前が神官爵を継げば、そのまま“持てる者”となれば、すべて丸く収まったというのに。これ以上の混乱を避けるためにも、無駄な足掻きはやめろ」
ラファエルは薄く笑った。
「混乱を避けるため、ですか。でも、その“混乱”とは何なのでしょうね」
「……」
「宝石を操り、人の運命を決め、必要のない者をふるい落とし、選ばれた者だけが栄える世界。国民が気付かずに無知でいることこそが神殿の望んだ未来だったのでは?」
混乱は、国民が気付きを得た証拠ですよ。呟くラファエルが本気で神殿の破壊を望んでいると理解して、神官長は青褪めた。
「ええ、喜ばしいことです」
ラファエルは微笑んだ。
きりのいいところで短めのお話になりました。




