秋の刻、光る欠片
風が冷たさを帯び始め、空の色が深まる頃。
神殿の庭にある木々は、日に日に赤や黄へと色を変えていた。
落ち葉が敷石の上に舞い、時折、乾いた音を立てて転がる。
風に乗って運ばれるのは、熟れた果実の甘い香りと、わずかに冷たさを含んだ土の匂い。
秋の陽は穏やかで、神殿の白い壁を金色に照らしていた。
その静かな午後、十歳になったヴァルターは工房の片隅で、小さな手を器用に動かしていた。
彼の前には、粗削りの石。
磨くことで輝く可能性を秘めた、無骨な原石だった。
手に持つ研磨具を使い、慎重に角を削っている。
「手元に集中しろ。荒く扱うと、すぐに欠ける」
ラファエルが、ヴァルターの手元を覗き込みながら言う。
彼の声は静かだが、厳しさよりも温かさがあった。
「わかってるよ、ラー」
ヴァルターは言いながら、額の汗を拭った。
彼はもう、無邪気に駆け回る子犬ではなかった。
まだ幼さの残る顔つきではあるが、しっかりとした意志が瞳の奥に宿っている。
神殿の中で学びを受け、貴族学校への準備をじっくりと進める日々。
卒業後は宝石ギルドに所属するか、神殿で神官爵の護衛騎士になるか、まだわからない。
剣術だけでなく、宝石加工の基礎、鉱石の特性、流通の仕組み——そうした学びの中で、彼は少しずつ大人びてきた。
「ここで一度、ルーペを使え。研磨の角度を確認してから、次の作業に移る」
ラファエルの指示に、ヴァルターは頷いた。
手を止め、慎重に石を持ち上げる。
ルーペをかざし、光の加減を見ながら、内部の屈折を確認する。
「……よし、問題ない」
小さく呟いて、再び道具を握る。
その様子に、ラファエルはどこか感慨深いものを覚えた。
(ヴァルターも、変わっていくんだな)
かつて、無邪気に駆け寄り、ただ笑顔で名を呼んでいた少年。
今は、真剣な眼差しで石を見つめ、言われなくても的確に作業を進めている。
子どもは成長する。
それは当然のことだが——何かが、少しだけ寂しく思えた。
「ラー、これで合ってる?」
ヴァルターが石を差し出し、ラファエルはそれを受け取る。
光に透かし、角度を変えて眺める。
「……悪くない」
ラファエルの言葉に、ヴァルターはぱっと笑った。
「やった!」
その顔には、まだあどけなさが残っていた。
けれど、確かに——彼は少しずつ、大人になっていくのだろう。
神殿の外では、赤く染まった葉が風に舞い、静かに秋の訪れを告げていた。
子犬ってすぐ大きくなるんですよね…。




