灰の救済
「何が罪だ。何が断罪だ」
ヴァルターは、ラファエルを睨みつける。
「そんなこと、俺がさせると思うか?」
「……ヴァル」
ラファエルの瞳に、一瞬揺らぎが生まれる。
「お前は、何もかもを失ってまで、この神殿に縛られたいのか?」
ヴァルターは、荒い息を吐く。
「何もかも失ってもいいなんて、そんなことを言うな」
「俺には、もう何も——」
「あるだろうが」
ラファエルの言葉を遮るように、ヴァルターは一歩踏み込んだ。
そして、ラファエルの腕を強く引き寄せた。
「お前が何を失おうと、何を捨てようと」
そのまま、ラファエルを抱きしめる。
「俺が、お前ごと、全部守る」
ラファエルの背中に、ヴァルターの腕が回る。
熱を帯びた身体が、凍てついた体温を溶かしていく。
初めて、「温かい」と思った。
それと同時に、恐ろしいほどの感情が胸を突き上げる。
(……俺は……本当に……)
何もかもを失っても、構わないと思っていた。
どれだけ神官爵が消えても、神殿が滅びても、何も残らない自分には、何の価値もないから。
でも——
「俺がお前を守る」
ヴァルターの声が、あまりにも強く響く。
この腕の中にいる限り、何もかもを失ってもいいとさえ思っていた。
だけど——
「……ヴァル……俺は……」
ラファエルの唇が震える。
そして、初めて言葉にする。
「俺は、お前だけは……失いたくない……」
ラファエルは静かに涙を零した。
「お前が望むなら、どこへでも行っていいんだ」
ヴァルターは、ゆっくりと囁く。
「お前はもう、アストルナクスの誓約を唱えなくていい」
それは、呪いを断ち切るための言葉だった。
「……俺は……もう、解放されてもいいのか」
「そうだ」
ヴァルターは、ラファエルの頬に触れた。
「お前は、俺と一緒に生きろ」
ラファエルは、ただ静かに瞳を閉じた。
そして、新たな誓いを交わす。
誓約ではない。彼自身の意志で。
ヴァルターと共に生きるために。




