誓約の終わり
轟音とともに、長年の権威を象徴してきた大聖堂の柱が、倒れ込む。
雪の夜空に、宝石の欠片が舞うように砕け散る。
誰かが叫び、誰かが逃げ惑うなか、騎士によって強引に外へ連れ出されたラファエルは静かに立っていた。
(死に損ねてしまった)
神殿は崩れ去った。
神官爵は消えるだろう。
もう、何もかもが変わる。
それなのに、なぜ。
「……なぜ、俺はまだここにいる」
足元に広がる瓦礫を見つめながら、ラファエルは呟いた。
「これが正しいことなら、なぜ、何も感じないんだ?」
彼の唇から、あまりにも静かな声が零れ落ちる。
「星々よ、聞き届けたまえ——」
雪に覆われた瓦礫の中、ラファエルはアストルナクスの誓約を唱える。
彼がその言葉を呟くたび、何かが崩れ、何かが終わる。
「アストルナクスの礎は——」
その誓約は、何もかもを繋ぎとめるものではなく、今やラファエル自身を縛る鎖でしかなかった。
「揺るがず、朽ちることなく、永遠に───」
声が、途切れた。
白く凍った瓦礫の中で、ラファエルは動かない。
崩れ落ちた神殿の冷気が、彼の身体を蝕んでいく。
そのとき——
残骸を蹴散らして、誰かが彼のもとへ走る音がした。
「ラファエル!!」
ヴァルターだった。
雪を踏みしめ、瓦礫を蹴り、荒々しく駆けてくる足音。
その声を聞いた瞬間、ラファエルの身体が無意識に反応した。
(……ヴァル……?)
幻ではなかった。
本当に、ヴァルターがここへ来たのだ。
「お前……お前は!まだそんな呪いを抱えているのか!」
ヴァルターの腕が、瓦礫を払い、目の前に立つラファエルを掴もうとする。
しかし——
「近づくな」
ラファエルは、静かに一歩、後ずさった。
ヴァルターの眉間に険しい皺が寄る。
「……何を言っている…のですか?」
「俺は……すべての罪を背負って、公王に断罪される」
それが、自分の最後の責務。
神官爵は消えた。神殿も崩れた。
けれど、それでも「公国」という国を守るために、自分が全責任を負わなければならない。
そうしなければ、ヴァルターの家も、公国も無事ではいられない。
だから——
「だから、俺は行かなければならない。お前はここに——」
「黙れ」
ヴァルターの声が、鋭く空気を裂いた。
雪の降る静寂の中、その一言は、絶対的な意思を持っていた。
この国の人たちいっつも自分を犠牲にしてなんとかしようとするんだよな。




