光の誓約
前作の数百年後の世界です。男しか出てきません。そういうお祭りだと思ってください。
東の空に朝の兆しが広がる頃、神殿の回廊は夜の静けさを名残惜しむかのように微かな冷気をたたえていた。春の終わりの朝は、冬の名残を手放しつつも、夏の熱をまだ迎えきれない。昨夜の雨が石畳を濡らし、そこに淡く光が反射している。
神殿の奥深く、天井の高い礼拝堂の中央に、ひとりの少年が跪いていた。
白い神官服の裾が大理石の床に静かに広がる。
彼の名はラファエル・エゼキエル・アストルナクス。
この神殿で育てられた、神官爵の後継者。
そして、今日もまた、彼は誓約を唱えなければならなかった。
「星々よ、聞き届けたまえ」
朝焼けの光が、礼拝堂の彩色ガラスを透過し、彼の白い衣の上に色とりどりの影を落とした。
「我らは久遠の輝きをまとう者なり」
その声は澄んでいた。だが、祈りに捧げる純粋さはなかった。
「嵐は過ぎ、波は砕けるとも、アストルナクスの礎は揺るがず」
唱えながら、ラファエルは己の内にある重みを噛みしめる。
この誓約は、信仰を捧げる言葉ではない。縛るための言葉だ。
ここで育ったすべての者に、己の役割を刻み込む呪いのようなもの。彼は生まれてすぐ、アストルナクスの家系から神殿へと送られた。
「朽ちることなく、永遠に連なりゆかん」
礼拝堂の扉が静かに開く音がした。
「遅れましたね、ラファエル様」
穏やかで、しかしどこか冷えた響きを帯びた声。
振り向くことなく、ラファエルは誓約の最後の一節を唱え終えた
「そは運命の理、天の定めしところなれば」
そして、ゆっくりと立ち上がる。
すらりとした年上の男性が、礼拝堂の入り口に立っていた。
彼は礼儀正しく一礼すると、少しだけ目を細めた。
「誓約の声が僅かに遅れました。何か気を取られることでも?」
その言い方はあまりにも整っていて、まるで心がないようだった。
「……いいえ、副神官長」
ラファエルは淡々と答え、副神官長は微笑んだ。
「ならばよろしいのですが」
踵を返して礼拝堂を出て行くのを見送りながら、ラファエルは胸の奥で小さく息を吐いた。
誓約を唱えるたびに、彼は思う。
——これは、本当に必要なのか?
しかし、言葉にはしなかった。
言葉にして抗ってみたところで、まだ、自分には何もできない。
前を見ると、朝の陽光が、大理石の床に細く差し込んでいた。ラファエルは誓約を唱え終えた後、ふと神官長がこちらに視線を寄越していることに気づいた。
「なぜ、毎日誓約を唱えるのだと思う?」
「……それが務めだからです」
ある程度満足した様子で、神官長はゆっくりと微笑んだ。
「それだけではないぞ。我らは、人々を導く者として、誓約を通じて地脈の流れを整えているのだ」
「地脈……?」
「神殿が存在することで、この地の均衡は保たれている。宝石の力は、人々を癒し、作物を実らせ、大地を潤す。それを支えているのが、我々の祈りだ」
「均衡を守るのが、神の意志だと?」
「そうだ。だからこそ、お前が神官爵を継げば、すべては変わらずに済む」
ラファエルは、何かが胸の奥で引っかかった。
「神官爵とは、単に信仰の継承者ではない。我々は地脈を守り、その流れを適切に整える者でもある」
ラファエルは神官長を見た。
「神官が地脈を守る?」
「我々の祈りは、神殿を通して地脈と共鳴し、宝石を調律する。その調律が、人々に恵みをもたらしている」
神官長は立ち上がり、神殿の壁を指でなぞる。
「この建物自体が、“祈り”を受け、増幅し、地脈と共鳴するための巨大な器なのだ。お前が唱える誓約も、その共鳴を維持するために必要なのだよ」
「……それは信仰の力なのですか? それとも…」
ただの技術なのですか、という言葉を飲み込んだラファエルに、神官長はただ微笑んだ。
誓約を考えるとき、自分の中の中学二年生がやる気を出して大変でした。
12話の予定で最終話まで予約投稿済みです。よろしくお願いします。




