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鬼女のあやかし殺し  作者: 大和煮の甘辛炒め
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桃源郷

 伊織は布団から身を起こす。

少しキョロキョロして目を擦る。

「そっか、いつもの家じゃなかった……」

「ふん、あたしの方が速かったな」

伊織の前で澪鬼が腕を組んでふんぞり返っている。

「何が……」

伊織が這いずるように布団から抜け出す。

土間に降りて水を汲み上げ顔を洗う。

「ふー、スッキリ」

伊織が水をぬぐってキャリーバッグを開く。

そして中からいろいろ取り出す。

「取り敢えず着替えと歯ブラシと……」

澪鬼が興味津々な様子で覗き込む。

「珍妙な服だな、動きやすそうではあるが」

澪鬼がジーパンをつまみ上げる。

「ほら、着替えるから出ていってくれ」

伊織が澪鬼を追い出そうとするが逆に押さえつけられる。

「なにしてんだよ!」

「何でわざわざ出ていかないといけないんだ!それとも何か見られては困るものが……」

澪鬼がパジャマをたくしあげる。

澪鬼が気の毒そうに肩を叩く。

「まだ間に合う。死ぬ気で鍛えろ」

澪鬼が無駄に大人な雰囲気で去っていく。

「え……なんか同情された……?」

伊織がぽかんとする。


⭐⭐⭐

伊織はヒメ婆さんに連れられて家の裏の洞窟を歩いていた。

無論澪鬼も一緒だ。

本来は留守番する予定だったらしいが

『お前一人で楽しいことするのはずるい!』

と言って無理やり着いてきたのだ。

『クールなお姉さん系かと思いきや年齢不相応のガキみたいなこと言い出すし……』

「澪鬼」

「ん、なんだ?」

「お前何歳?」

「八十歳」

「ほーん……は!?」

若見えなんて次元じゃない。

どこからどう見ても二十代の若者だ。

「まー、人間じゃ無いしな」

澪鬼が尋ね返す。

「そういうお前は何歳なんだよ」

「俺か?二十二歳だ」

「年の割に老けてんな」

「人間はこれが普通なんだよ」

ヒメ婆さんが立ち止まる。

「着いたよ」

伊織が困惑する。

「行き止まりでは?」

「おや、まだ見えないのかい。てっきり見えてるもんだと思ってたよ」

ヒメ婆さんが伊織の額を杖でこづく。

「急に何……うわぁ」

伊織が目の前の景色に息を飲む。

目の前の行き止まりは煌々と煌めく都に続く赤い橋に変わっている。

「あれ、洞窟が消えてる……」

伊織が辺りを見渡す。

「ここが『桃源郷』だよ」

ヒメ婆さんが橋を渡る。

伊織達もついていく。

「星が……昼夜逆転してるのか」

「そう。それに美味しいもんがいっぱいあるんだぞ」

澪鬼が走り出す。

「あの娘に案内してもらいな。後で落ち合おう」

ヒメ婆さんが言う。

「わかった」

伊織がうなずいて澪鬼の後を追う。


⭐⭐⭐

「うーん、普通の焼き鳥と何ら変わらないな」

伊織が焼き鳥屋を覗き込む。

「澪鬼にも花婿か~」

焼き鳥屋のおじさんがニヤニヤしながら澪鬼と伊織に焼き鳥を渡す。

「っ!そんなんじゃないから!」

澪鬼が真っ赤になって焼き鳥を奪い取る。

「兄ちゃん人間だろ?一本サービスしてやるよ」

おじさんが焼き鳥をもう一本手渡してくれた。

「良いんですか?ありがとうございます」

早速頂いてみる。

「ウマッ!」

思わず大声を出す。

「ハッハッハ!だろ?兄ちゃん分かってるじゃねえか!」

おじさんが豪快に笑う。

「そんな大袈裟に……美味しいけどさ」

澪鬼が呆れながら言う。

「すげえな桃源郷!」

伊織が興奮して言う。

澪鬼が呆気にとられるがすぐに頷く。

「そう。桃源郷は凄い!」

「お楽しみ中悪いけど」

いきなり誰かが二人のあいだに割って入った。

「……艶狐(えんこ)か」

澪鬼が睨む。

紫の着物に身を包んだ九尾の女がニヤッと笑って頷く。

「今日こそ決着つけましょうや。そちらの人間さまもおいでなすって」

艶狐が伊織の顎に手を置いて覗き込む。

「さっさと行くぞ」

澪鬼が歩き出す。

「おやおや、やる気満々ですなぁ。人間さまも行きましょう、欲望渦巻く色街へ」

艶狐が艶っぽい笑みを浮かべる。

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