第4話「こいつを丸焼きにして食うぞ」
◇
「ガル!あっち!」
「オルァァァ!!」
「そっちにも!」
「オラオラァ!死に晒せゴミクソ共が!!!」
「ぴゅっぴゅるるぅーー!!」
更なる目的を達成すべく、ガルバーナ一行は今日も道すがら魔獣達の命を奪う。
青々と生い茂っている緑豊かな草原は刻一刻と血で真っ赤に染まりつつあった。
「流石ガルバーナ先輩、鮮やかなお手並みです」
「当たり前だ!俺様を誰だと思ってやがんだ!」
「野蛮人」
「クソアマてめぇ…二度とそんな口が聞けなくしてやろうか…!」
「あ、豚さん」
「肉!!」
本気で殺されかねないと察したバラーシュが偶然視界の端で捉えた豚に矛先をキラーパス。
豚は死んだ。
「おい、こいつを丸焼きにして食うぞ!」
「だったらだし醤油の補助機能を使うといいですよ。丁度接続部辺りにスイッチがあって、ここを押すと…」
「ぅおおお!?火が出やがった!!」
義足の爪先が開き、そこから火炎放射の如く火が噴き出して豚をこんがりと焼く。
補助機能の域を超えたそれを理解出来ずにバラーシュは頭を悩ませた結果、爆発した。
「豚うめえ!」
「あ、俺達には分けてくれないんだ…」
「ハッ!?私は何を…」
いつでもどこでも賑やかな一行の前に、1人の男が現れる。
「あのぉ、その豚は私が育ててた豚でして…」
「あぁ?なんだてめぇ」
「あ、えっと、すぐそこで牧場を経営してるゼンバーと申します…」
「ぴょぴょぴーー!!」
見れば、ゼンバーと名乗る男の背後には確かに小さいながらも牧場が存在していた。
豚や牛と言った動物が決して少なくない数育てられているのが見て取れる。
「ゼンバー…あれ?その名前どこかで聞いた事あるような?」
「キャリッジのゼンバーさんの事か?」
「その人だ!しかも顔もどことなく似ているような…」
「と言うか同じだな。確か盗賊に殺されたって話だったような…実は生きてたとか…?」
「いや、確かに死んでたよあれは」
ゼンバーと言う男を知る2人は頭を捻るが、搾りカスも記憶に残っていないガルバーナから見て牧場経営者のゼンバーもキャリッジのゼンバーもどちらも初対面だ。
故にその顔に疑問は抱かず、ただただ牙を剥く。
「で?」
「で、とは…?」
「俺に何か用か?」
「え…だ、だから、私が育てた豚を殺した挙句に食べられている様なので、そう言う事はしないでほしいと言いますか、迷惑と言いますか…」
「はぁぁぁん??迷惑だぁ??この俺が、いつ、てめぇに迷惑かけたってんだよ?お??」
「ぴっちょりぴっ!!!!」
「だから、豚を殺した事が」
「ゴチャゴチャうるせえんだよゴミクズが!!!!」
「あっバァ!?!?」
とうとう理不尽にブチ切れたガルバーナがゼンバーの胴体へ蹴りをお見舞いすると、あまりの威力に踏ん張る事も出来ずに吹き飛んだゼンバーが牧場の家屋を貫いて牛や豚を囲う塀の中に転がり込んだ。
心配してなのか、仰向けに倒れて動かないゼンバーの周囲を牛や豚が囲い、鼻を押し付ける。
しかし、既にゼンバーは反応することなく、家屋にあったのであろうピッチフォークが刺さって絶命していた。
「あ?もう黙っちまったのかよ。殺り甲斐のねえ奴!」
「ぴょっ!!」
「ついに善良な人にまで手を挙げちゃったか…」
「突っかかってきたアイツが悪ぃ。おら、さっさと行くぜ」
「もしかしたら俺はとんでもない人に着いて行ってるのかもしれない」
例え人が死のうが旅は終わらないしやる事も変わらない。
ガルバーナ一行はゼンバーの死を忘れ去り、次の目的地、雪原地帯を目指して歩みを続ける。
雪原地帯に近付くに連れて草原の草花は凍り、積もる雪の嵩も増してきていた。
そして。
「さ、寒いね…」
「耐寒式戦衣をもってしてもまだ寒い…これは改良の余地があるね」
「鍛冶屋って何でもするんだね。ちょっと見方変わるよ」
耐寒式戦衣。
現在、ガルバーナ一行達が身に付けている衣服の名称であり、鍛冶職人のアレスがマスカルポーネの衣服屋と連携して開発した寒さを凌ぎつつ軽快な動きを可能とした戦闘服だ。
毛皮を用いた服では嵩張って動き難いとガルバーナが駄々を捏ねた結果、アレスが衣服屋に掛け合って実現した。
「んだこれどこ見ても真っ白じゃねえか!冷てー!!なんだこれ!?」
「雪だよ。ガルは見た事ないんだっけ?」
「ほぇー…んで、こんなとこにカン…タブロス?ってのはいやがるのか??」
「ケンタウロスですよ。ケンタウロスはもっと先の、フェタフォレストって森に棲んでるんです」
「フェ…?なんで森になんか棲んでんだ?」
「なんでも狩りに適しているとかなんとか…実際に会った事も見た事もないからよく分からないんですよね」
「じゃあ俺と一緒だ!何も分かんねえ!ギャハハ!!」
「馬鹿丸出し」
「あぁん??クソアマテメェ…オラァ……」
一触即発。ガルバーナから火花が飛び散る。
そこへバラーシュにとって救いの手が伸びた。
「ガルルルルル…!」
「あ?」
「スノーウルフ!なんて数だ…!」
狼型魔獣・スノーウルフ数十体の群れと言う命の保証は一切ない救いの手が。
「丁度いいぜ…今無性にむかっ腹が立ってんだ!!全員俺の前にひれ伏せやがれやぁ!!」
戦衣に備えられたガルバーナ専用武器の鞘からアレスお手製大剣が引き抜かれる。
白銀に光る刀身のそれをガルバーナは軽々と振り回すと、舌なめずりをして魔獣を見定めた。
「いち、にー、さん、しー…次はろく?はち?……あー何でもいい!どうせ全員殺っちまうんだからなぁ!!」
「やっぱり馬鹿だねぇ…」
「ああ!?クソアマテメェ後で覚えてろよ!!」
「ガルが覚えてたらね~」
何故わざわざ自分から怒らせてしまうのか。
余計な事しか言わないバラーシュをさておき、懸命な事に今目の前にいるスノーウルフを殺す事にしたガルバーナ。
「行くぜぇ!!」
獰猛な獣の如く、ガルバーナの殺す為だけの斬撃がスノーウルフの群れに襲い掛かる。
大剣を片手に足場の悪い雪原を縦横無尽に駆け回り、近くにいる者から無慈悲に両断していく。
それは例え味方でも然り。鬼神さえ思わせるガルバーナを本能的に恐れたスノーウルフ達の逃走ルートに偶然にもバラーシュとアレスは立っていた。
「これやばいね」
「こっちに向かってきてる…ガルバーナ先輩、もしかして俺達ごと…?」
「流石のガルでもそこは区別ぅ…」
バラーシュとアレスの眼前に触れたものを切り裂く鉄の塊が迫る。
「付かないよねぇ!!」
「バラーシュ!!」
死を覚悟したバラーシュの頭は爆発してそこから「ぴよぴよ」と爆裂ひよこが飛び出す。
咄嗟にアレスがバラーシュを引き寄せて倒れ込んだ事で斬られる事はなかったが、力なくアレスに抱えられるバラーシュはまるで死人だ。
「ヒャッハーーー!!皆殺しだぜぇぇぇ!!!!」
「ちょ、ちょっとガルバーナ先輩!?」
尻尾を巻いて逃げ出すスノーウルフの群れをどこまでも追い掛けていくガルバーナを見てこのままでははぐれてしまうと思ったアレスは、未だにひよこをぴよぴよさせているバラーシュを背負い、後を追い掛ける。
幸いアレスには力も体力もある。バラーシュの様な華奢な女の子を背負う事は造作もなかった。
「あれだけのスノーウルフの群れを相手にしてまだあんなに体力があまり余ってるなんて…!流石ガルバーナ先輩…!」
やりたい放題なガルバーナの背中を追い掛けて、アレスは走り続ける。
スノーウルフの死体と血で濡れた雪道を。