43.徐々に取り込まれ消える誇り
翌日もその翌日も、ママとメイベルは私とお茶をしている。のんびりと午後の日差しを浴びながら、私は首を傾げた。
「ママ、調査するのよね。えっとウィルズ侯爵?」
「イング男爵の方が先だけれど、そうね。調べさせてるわ」
さらりと聞き流しそうになって、ん? と引っかかった。
「イング子爵じゃなくて?」
「この国を併合した際、この国の貴族は一つずつ爵位を落としたの。だからウィルズも伯爵家になってるはずよ」
ブラッドリー国の支配下に入ったので、爵位を下げたのかな。もし無理やり国や城を陥落させた場合、爵位は当然消えてしまう。貴族の爵位を保証しているのは、王族だから。王家が滅んだら、彼らの爵位は「元」になるのだ。
「だから私もターラント侯爵でしょう?」
「そういう事情だったんだ」
公爵家は王家に血が繋がる貴族だ。国王がブラッドリーのお祖父様になったので、親族でないメイベルが侯爵になったのだと思っていた。単に、全員一つずつ落としたのなら、納得。
「男爵はどうしたの?」
貴族社会はピラミッド型で、子爵や男爵は数が多い。ならば男爵家が一つ爵位を落とすと……何になるのか。平民じゃないよね?
「準男爵って知っているかしら。功績を上げた騎士が一代限りで受ける称号よ」
知っている。稀に財力で国に貢献した商人ももらうことがある称号だ。正確には貴族とは違い、貴族と同じ扱いを受けることが出来る手形のようなもの。もちろん当代限りで、子孫に継承は出来ない。
「じゃあ、元男爵家は次の世代で消えちゃうの?」
「じゃないと数が多すぎるのよ」
お母様がさらりと肯定した。さらに付け足された情報によれば、現時点で爵位を落としたこの国の貴族は、三代まで。それ以上の爵位継承を望むならば、ブラッドリー国に貢献しなければならない。
「お父様は、可愛い小さなお姫様を殺した国を嫌っているの。できれば滅ぼしたいくらいには、ね」
三代あれば半世紀ほど猶予がある。お祖父様が見届けることは出来ないけど、お母様ならギリギリかも。
「私はターラントの最後の直系よ。でもホールズワースに血を残す。だから家は消えるけれど、一族は繋がるわ」
メイベルも考えた末に、お兄様の求婚を受け入れた。その理由が、この国の王侯貴族を滅ぼしたいから。はっきりとそう聞こえた。メイベルは穏やかに微笑むけれど、きっと生き残ることへの葛藤はあったと思う。
己が持つ王家の血をブラッドリー国に捧げることで、王家の復活を阻止する。それもメイベルの復讐のひとつだろう。ブラッドリー国の王族の血が混じれば、メイベルの子を担ぎ上げることも出来ない。彼女が女性で良かった。そうでなければ、己の意思に関係なく担がれたよね。
「聡すぎて、時々可哀想になるわ。もっとゆっくり大人になりなさい」
「そうよ。大人になってからの方が人生長いんだもの。子ども時代を楽しんだらいいわ」
ママとメイベルに頷き、私は目の前に用意されたお菓子を頬張った。お使いに出されたにぃにとパパが情報を持ち帰るのは、さらに数日後だった。




