表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/72

01.復讐してやるんだから!

 おぎゃぁあ! 大きな声で泣く。痛かった、苦しかった、悲しかった。その想いが溢れて止まらない。何もしていないのに冤罪で殺された。婚約者を奪われ、命まで取られるほど、悪いことした? なぜか赤子になった手足を振り回し、可能な限り全身で訴える。


「あらあら、ご機嫌斜めなのね」


 優しい声が聞こえて、ぼやけた私の視界に入ってきたのはピンクの髪の美人。どこかで会ったことがある? むっと顔を歪めたまま睨みつけた先で、美人は微笑んだ。


「いい子ね、キャロライン」


 抱き上げて、私の頭を撫でる。優しい手の動きに誘われて、目蓋が重くなった。眠りに誘われる私は、夢の中ですべてを思い出した。








 夜会の華やかな会場で、私は騎士に床へ押さえつけられていた。ホールズワース侯爵令嬢であり、未来の王子妃だった私の誇りは、今や見る影もない。浮気したくせに……その一言を絞り出そうと喉を動かすが、実際に吐きだせたのは乱れた呼吸だけ。


 大柄な男二人に両側から圧迫され、呼吸すら難しかった。コルセットで締めあげた腰が悲鳴を上げる。視線の先で、金髪の青年が私を睨みつけた。透き通った青い瞳に浮かぶのは、憎しみの光だ。これが婚約者として八年も寄り添った私に向ける目だなんて、ね。


「醜い言い訳は不要! グロリア・ホールズワース、お前の罪状は明らかだ。我が最愛の聖女リリアンを貶め、殺そうとした。その罪は神々もご存じである。温情をもって罪を償う道を与える」


 婚約者である第二王子メレディスは、そう告げた。言葉を飾ったって、死んで贖えってことでしょう。冤罪なのに、何度告げてもあなたは聞かなかった。神がいるのなら、私を憐れんで罰を下すでしょう。あなたや聖女リリアンに、必ずや復讐を!


「やめろ……私の娘だぞ!」


 宰相である父が押さえつけられ、振りほどこうと暴れている。酸欠でぼうっとする頭を振って、父に一言……そう思った直後、悲鳴が聞こえた。


「グロリア! 離せっ、貴様ら」


 あれはお兄様の声だわ。怒った響きに涙が溢れた。私を拘束する騎士を引き剥がそうとする兄の腕、助けようと足掻く家族や友人が涙で滲む。


「やめてっ!」


「きゃあああ……っ」


 親友の公爵令嬢メイベル様の声が聞こえた。視界がごろりと転がる。何が起きたのか、首がないドレス姿を目に焼き付けて――私はグロリア・ホールズワースの人生を終えた。








 ぱちりと目を瞬く。夜の薄暗い部屋で、泣きもせず空中を睨む赤子は不気味でしょうね。誰もいない空中を睨み、私は心の中で叫んだ。


 リリアン、許すまじ! 冤罪を仕掛けた王子メレディスも殺す! 絶対に許さない。記憶を持って生まれ変わったのは、神様の恩寵に違いないわ。これは復讐を許されたのよ。


 ぐっと拳を握った直後、じわりとお尻が濡れる。気持ち悪さに声が漏れた。


 おぎゃああああ!


 記憶があるのにオムツを他人が替えてもらうのは屈辱だけど、この気持ち悪さに勝てない。べったり張り付いたオムツが不快なのだと訴えながら、私は全力で抗議した。さっさと交換しなさいよ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ