DIVE70「マップ外ダンジョン」
宮殿の中に入ると、まずはエントランスホールがあった。その奥には、まるで俺たちを誘うかのように一本の通路が伸びているのが見える。
「妙なギミックがあったりしないですよね? あの通路に入ると例のスライムが出てきて追いかけてくる、とか」
「分からない。注意するに越したことはないだろうね」
「そんなぁ……!」
リリーは「RISK」のスライムとの戦闘がトラウマになっているのか、ブルブルと震えた。一度体内に飲み込まれて溶かされかけたのだから、無理もないだろう。
俺たちはいつ敵と遭遇してもいいよう戦闘態勢を取りながら慎重に進んでいく。
無機質な通路を抜けていくと、その先で白いモヤに突き当たった。
「なあ、これってもしかして……」
「ああ、おそらくダンジョンと同じだろうね。通ったらボスが出てくるんだろう」
「どんな敵が出てくるんでしょう……?」
「分からない。でも、行くしかないみたいだな」
俺はみんなの様子をうかがってから、モヤをくぐり抜けた。
がらんどうの大部屋には、一匹のでかいスライムが待ち構えていた。
「す、す、スライム!」
「落ち着け、リリー。これだけ人数がいるんだ。一匹くらいならすぐにやれる」
モヤをくぐったというのに、なぜかスライムは動かない。ここは先手必勝、少しでもダメージを与えておきたい。俺はそのスライムに駆け寄っていった。
しかし俺が攻撃する直前、そのスライムはぐにゃりと形を変えた。ただの液体の塊から、意味のある形状へ。
「人間……!?」
スライムが形作ったのは、紛れもなく人間の姿だった。ご丁寧に剣と盾を模したものを握っている。やつの頭上には「スライムパラディン」と表示されている。
「形なんて関係ない! 倒せばそれでいいんだろ! 一気に行くぜ!」
俺は自分を奮い立たせるように言うと、スライムパラディンに斬りかかった。
やつはそれを盾で弾くと、剣で突いてきた。そのあまりの速さに、俺は泡を食って離脱した。
「なんだこいつ、速すぎる……!」
「アタシたちがいることも忘れないでよ!」
あろゑはダッシュで近づくと、スライムパラディンに殴りかかっていった。その隙間を縫うようにして、四十万が護符によって生成した弾丸を打ち込む。
「わ、私だって!」
リリーはそれを見て、すかさず矢で攻撃した。
スライムパラディンは三人の攻撃をいとも簡単に捌いてみせた。
あろゑのパンチを盾で防ぎながら、四十万とリリーの攻撃を剣で打ち落とす。それは明らかに通常の攻撃スピードではなかった。
「そんなのありですか!?」
「バグってるからって調子に乗りやがって……!」
総勢六人でも攻めあぐねていることに、俺は驚きを隠せなかった。「RISK」がここまで進化を遂げているとは思わなかったからだ。
「これじゃ埒が明かねぇぞ!」
体力の減りも尋常ではなく遅い。これではこちらが消耗するばかりだ。
こうなったら、もうあれをやるしかない。
俺は心の奥底から激情を呼び覚ました。
「目覚めろ……!」
そして、叫ぶ。
「魂解!」
急激に時間の流れがゆるやかになり、視界がモノクロームに染まる。
俺はスライムパラディンに対峙した。
驚くべきことに、やつの動きは魂解された空間の中でも衰えなかった。だが、これで普通のPVPになったわけだ。
俺は盾の上から通常攻撃を叩き込む。スライムパラディンはそれを防ぎきると、俺の胸元目掛けて突いてきた。
俺はそれをあえて防がずに体で受ける。
「知らないのか? 『ハードスケイル』っていうんだけど」
スライムパラディンは首をかしげる。俺はやつの魂核を貫くと、その体から剣を抜き払った。その途端、スライムパラディンは粉々に爆散した。
「魔物が人間の真似事をするのは百年早いぜ」
魂解を解くと、視界が再び彩りを取り戻す。
「カヲルくん、いまのが魂解かい?」
「ああ、そうだ。敵の魂核を突いた」
「なにそれ? そんなの初めて聞いたけど」
「言ってないからな」
「だから言ってよぉ!!」
笑い声に包まれながら、俺たちは先を急ぐ。
1ボスがいるなら、2ボスもいるはずだ。おそらくそこに今回の黒幕がいる。




