DIVE69「突入」
「おそらくこの辺りにあるはずだ」
俺たちは鬱蒼と茂る密林の中を歩き回りながら、「RISK」たちの本拠地を探している。ツタや雑草が体に絡んできて、どうにも歩きづらい。ゲーム内だから虫刺されの心配がないのが幸いだろうか。
「どうだ、アイ? マップ外エリアはありそうか?」
「まだない。」
「そうか、ダメか……あっちの方へ行ってみるか」
マップウインドウを眺めながら、俺たちは草むらをかきわけ、道なき道を歩いていく。少し前に進むだけでも結構めんどくさい作業なのに、魔物までうろついているときた。全く、厄介なところに拠点を築いたものだ。
「おっ、なんか開けたぞ」
草むらを抜けた俺たちは、小さな広場に出た。
その中央には、樹齢うん千年はありそうな巨大な木の幹がそびえ立っている。
アイは頭上を見上げると、その視線の先を指差した。
「この上に、ある。」
「この上って……まさかこれを登るのか!?」
アイがこくりとうなずくのを見て、俺たちは嘆息した。横移動でやっとたどり着いたと思ったら、今度は縦移動か。外敵の侵入を阻むにはふさわしい立地だと言える。敵ながら天晴れだ。
しかもおあつらえ向きに、木の幹の周囲にぐるりと巻きつくようにして、一本の太いツタが生えている。ここを登っていってくださいと言わんばかりのオブジェクトだ。
「仕方ない、登ろう」
四十万の鶴の一声で、俺たちは登頂を決めた。
えっちらおっちらとツタの上を歩きながら、俺たちは木の幹を上がっていく。
「この森は千年樹の森と呼ばれていてね。当初は密林エリアを設置する予定はなかったんだが、モデラー班の熱意あるプレゼンによって設置されることが決まったんだ」
「へえ~」
「そんな開発裏話が聞けるなんて夢みたい!」
あろゑはこんな状況だというのに、四十万の話を聞いてのんきにはしゃいでいる。真剣味が足りないんだか大物なんだか、よく分からない女だ。
途中、鳥系の魔物に絡まれはしたが、その他には問題なく先へ進むことができた。
やがて俺たちは、木の幹の頂上にたどり着いた。
生える無数の枝に囲まれて、中央に平らな床のような部分がある。俺たちはそちらの方へ進み出た。
「アイくん。ここならどうかな」
「ちょっと待って……うん。あった。」
アイの掲げた手からノイズが放たれ、空中にひびが入る。
そこから裂け目が広がり、大きな穴を生成すると、白黒の渦が出現した。
「ここからは敵の本拠地に突入することになる。何が起こってもおかしくない。みんな、覚悟はいいかな」
四十万の問いかけに、俺たちはそれぞれうなずいた。
「当たり前だろ。俺たちは『RISK』をぶっ倒すためにここまで来たんだ」
「私みたいなプレイヤーにも出来ることがあるなら、それを全力で果たしたいです」
「私も、頑張る。」
「ここまでついてきたんだもん。最後まで付き合うよ」
「みんな絶対に生きて帰ろう」
「……そうだな。君たちにとっては愚問だったようだ」
俺はみんなの先頭に立つと、渦の中をのぞきこんだ。そこには未知の領域が広がっている。
怖くないと言えば嘘になる。だが、俺には心強い味方がついている。
「行くぞ!」
俺たちはこうして、「RISK」の本拠地であるマップ外エリアへと突入した。
気持ちの悪い浮遊感とともに視界が暗転し、それから再び地面の感触が戻ってくる。
しっかりと体重をかけて着地した俺は、ゆっくりと目を開けた。
「なんだよ、これ……!」
テレポートを終えた俺たちの眼前に現れたのは、真っ白な宮殿だった。
外周には装飾の彫り込まれた柱が立ち並び、その中心には入口がぽっかりと口を開けている。
「マップ外エリアの次はマップ外ダンジョンってか……!」
「まさかこの規模のバグが発生しているとは、私も想定していなかったよ」
俺たちは周囲を警戒しながら、白と黒のコントラストで出来た世界を慎重に進んでいく。




