DIVE67「ニモ砦防衛戦 その4」
俺たちは襲い掛かってくる攻撃に対して回避を優先することで、なんとか大岩山と渡り合っていた。しかし、その均衡も長くは持たない。
「もうポーションがないです!」
「俺も切れた……!」
「ない。」
みんな最後のポーションを飲み切ってしまったらしい。これからはもう一発も被弾できない。
そのとき、城壁の上からあろゑの叫び声が聞こえた。
「城門の耐久値がもう限界! あれやるよ!」
「了解!」
まず、あろゑはボウガンを使って拘束弾を放った。ワイヤーが大岩山の巨体に巻きつき、その動きを一時的に妨害する。
城門の真ん前で無防備に立ち止まった大岩山をにらみつけながら、あろゑは滅竜槍のレバーに手をかけた。
「いけるか……!?」
俺がそう呟いた瞬間だった。
槍が発射されるより前に、大岩山が拘束をわずかに破った。ワイヤーフックが外れて自由になった右前脚を使ってもがき、体勢を変えて絡みつくワイヤーから逃れんとする。
「ダメ! これじゃ両方の槍が当たらない!」
あろゑはうろたえながら、レバーを引くのをためらった。そのままの勢いで引いていたら、大岩山を討伐するのは完全に失敗していただろう。不幸中の幸いというべきだろうか。
「どうする!?」
「右前脚を攻撃してダウンさせるしかない!」
「分かった!」
俺たちは急いで大岩山の右前脚に向かうと、攻撃を再開した。
これは戦っていて分かったことだが、いずれかの脚に一定量のダメージを与えることによって大岩山をダウンさせることができる。もっとも、それは体感でかなりのダメージを蓄積しなければならない。
この土壇場で果たしてそれが出来るのかどうかは、誰にも分からない。
(頼む、倒れてくれ……!)
俺はいるかどうかも分からない勝利の女神に祈りを捧げながら、大岩山の脚を必死に斬り続けた。
しかし、神というのはいつだって無情なものだ。俺たちがもたもたと殴っている間に大岩山は徐々に拘束を破っていき、やがて完全にワイヤーからの解放を果たした。
「そんな……!」
拘束を破った大岩山が、城門から離れようと歩き始める。
もう終わりだと、俺たちが諦めかけたそのとき。
「いい加減、倒れろっての!!」
あろゑはそう叫ぶと、大砲を発射した。右前脚に着弾した砲弾の爆発を受けた大岩山は、ぐらりと体を揺らしながら右斜め前に向かって倒れ込む。
あろゑが放ったダメ押しの一撃によって、累積ダメージが奇跡的に一定量を超えたのだ。
俺は思わず腹の底から叫んだ。
「いまだ、あろゑ!」
「言われなくても!」
あろゑはレバーを両手でつかむと、折りそうな勢いで手前に倒した。
城門の両脇にある滅竜槍が、回転しながらその刃を大岩山に突き立てる。
「いけえええええええっっ!!」
「グオオオオオオオオオオオ!!」
二本の巨大な槍が抜き取られると、大岩山は地を揺るがすような断末魔を上げながら、地面に倒れ込む。それから少し遅れて、勝利のファンファーレが鳴り響いた。
地上で戦っていた俺たち三人は安堵のあまり地面にへたり込んだ。本当にこのデカブツを倒せたんだという実感が後からじわじわと湧いてくる。
「やった! やったよみんな!」
はしごを降りたあろゑは、歓喜の声を上げながら俺たちの下に駆け寄ってきた。
満身創痍の俺たちは、力ない笑い声でそれに返事をした。
「もうこんな『RISK』たくさんだ……!」
「私もです……!」
「限界。」
疲弊しきった俺たちを見て、あろゑはくすくすと笑った。
その声を耳にした俺はムッとして思わず口を開く。
「なあ、ちょっとそれはひどいんじゃないか?」
「だって、みんなあまりにげっそりした顔をしてるもんだから……くふっ!」
「あっ、また笑ったな! おい、待て!」
「待てと言われて待つやつがいるか!」
俺はふらりと立ち上がると、笑いながら逃げるあろゑを追いかけて走り出した。
こんな団らんが出来るのも、RISK化した大岩山を倒したおかげだ。束の間の休息を楽しむくらいは許されるだろう。




